光抱く友よ
著 者:高樹のぶ子
出版社:新潮社
ISBN13:978-4-10-102411-0

光抱く友よ

第90回芥川賞受賞作品

書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞

渡辺小春 / 書評アイドル
読書人WEB限定


思春期の少女の孤独と不安

 今回は、第90回芥川賞を受賞した、高樹のぶ子さんの「光抱く友よ」を選んだ。

 主人公の相馬涼子は、母親に「好きなら好き、嫌なら嫌、賛成か反対か右か左か、こういうことが体の裡にピシッと決まって初めて一人前になれるの。あんたみたいなどっちつかずの人間、誰かを愛したり、誰かのために役立つなんてこと、出来っこないわ。」と言われるように、パッとしない。大学教授の父親を持ち、真面目な優等生で、今の私と同じ17歳の高校生だ。そして、クラスメートの松尾勝美は、朱色の派手な髪色をして、誰とも会話をしなければ、授業中の態度もよくない、クラス内で悪目立ちしてしまうような生徒。彼女は、シングルマザーの家庭で育っており、アル中の母親に暴力を振るわれている。荒れた生活を送っているある日、そんな松尾に、涼子が恋をしている担任が怒鳴り、暴力を振るっている姿を見て、涼子は初めて聞いた担任の乱暴な声が信じられずに不安を抱く。また、そこまで先生に怒られた松尾の姿が印象に残り、彼女のことを知りたいと思うようになる。正反対の性格や家庭環境のちがう少女二人がお互いを刺激し、触れ合いながら大人になっていく物語だ。

 松尾の部屋を訪れた涼子は、宇宙好きな松尾の彼がくれたという沢山の宇宙の写真をみてこう言う。「顕微鏡もこのお部屋の写真もね、どっちみちさあ、人間の肉眼じゃ見えん世界なんよね。うち、こういう写真見てると、何ていうかすごく虚しい気分になってくる。人間はとことん無力だと思えてくる。」「真実在るもんを、この目で見ることが出来んわけよ、そう考えたら、人間なんて生きてるのも死んでるのも似たような、あれよ、細菌とかバクテリアとどっこも違いがないみたいな……」

 私は、宇宙が大好きで、よく帰り道は星空を眺める。星空を眺めている時間は一番好きな時間だ。たまに双眼鏡を使って天体観測をすることもある。ただの明るい星だと思っていた星が、実は木星だったという真実が双眼鏡を通して発見することが出来る。涼子の言う通り、星々やバクテリアは、天体望遠鏡や顕微鏡といった、何かを通してではないと真実をみることが出来ない。これは、私たちにも言えることなのかもしれない。目で見ただけでは、相手の事を知れない、真実を知ることも出来ない。また、星空を眺めていると、今見ている無限に広がる宇宙という大きな規模でいつの間にか物事を考える。そうすると、私個人の存在なんて本当にちっぽけで、無力だな、到底かなわないなと思い知らされる。「そう考えたら、人間なんて生きてるのも死んでるのも似たような」という涼子のこの言葉がぐさりと胸に突き刺さった。そして何だか悲しくも思えた。

「深さを測ることのできない夜空に、星のまたたきひとつ探し出せなかった」。これは、私の気持ちと重なった文章だ。思春期の少女の、孤独感と未来に対する不安と、自立しきれない不安定な心と体。時代背景は、現代と違えども、同い年の彼女たちと不安に思っていることは一緒なのかもしれないと思った。

 先の見えない未来に不安を抱きながら、光があると信じて進路を決めたり、夢に向かって勉強をしたり、他者からの刺激を受けたりしながら自己を形成し、成人となっていく。今がその時だなと、私自身最近感じている。その分悩みや不安、もどかしい気持ちが大きくある。暗闇に輝く星々。それは、闇を彷徨いながら必死に煌めきを探している私たちの繊細な光のようではないだろうか。

<写真コメント:最近、「ミッドナイトスワン」という映画を観たのですが、はじめて映画を観て泣いてしまいました。感動、辛さ、かなしさ、色々な感情の混じった涙でした。まだ余韻が続いています。>

★渡辺小春(わたなべこはる)=書評アイドル
五歳より芸能活動を始める。二〇一六年アイドル活動を始め、二〇一八年地下アイドルKAJU%pe titapetitを結成。現在「読書人web」で『書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞』連載中。最近の活動として、官公学生服のカンコー委員会、放送中のNHKラジオ第2高校講座「現代文」には生徒役として出演中。二〇〇四年生。
Twitter:@koha_kohha_