ぼくが13人の人生を生きるには身体がたりない。
著 者:haru
出版社:河出書房新社
ISBN13:978-4-309-24963-6

それでも生きて花丸を

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

髙平紀子 / 新富町図書館(TRCスタッフ)
週刊読書人2020年11月6日号


 あなたの人格は、ひとりだけだろうか。些細なことから重大なことまで、人生は選択の繰り返し。そんな時々に重すぎるストレスを抱えていたら……、自分を支えるため別の人格が生まれてくることがあるのかもしれない。

 haruの中には13人の人格がいる。「彼」は解離性同一性障害(DID)と診断されており、同時に性同一性障害(GID)で、また、注意欠陥・多動性障害(ADHD)とも診断されている。障害だらけで「情報が渋滞しそうだけれでも、とにかく、ぼくたち交代人格はharuという少々複雑なひとりの人間の中に存在していて、いわば彼の身体をシェアしている。」とつづっているのは、交代人格の中でまとめ役をしている「洋祐」だ。洋祐は、haruが2歳の時に17歳の人格として生まれ、その後ずっと彼を見守り、その年齢が追いついてからは一緒に成長してきた23歳の男性だ。

 実は、この本の主な著者は、女性や子供を含む数人の交代人格たちである。haru本人が書いているのは「おわりに」の部分だけであることには驚いた。そして彼らの特徴を読者にわかりやすくするためなのか、それぞれにふさわしい異なる書体が使用されているのが面白い。

 さて、DIDと言われてピンとこない人でも、「多重人格障害」とか「ビリーミリガン」の名前を思い出す人はいるだろう。著者たちは自分の頭の中を図解して「コックピット」に座った人が表に出てくる人格だと説明する。それぞれの「記憶」のアクセス方法や、表に出てない人格はどうしているのか、自分たちがどうして生まれてきたのかについての考察もわかりやすい。とてもすぐれた体験記であり、治療者にとっては専門書の意味さえ持つという。しかし、この1冊を読み終えたときに感じるものは「生きていてほしい」という切実な願いだ。「それでも、それでも生きてしまう世界は、なんて中毒性のある世界なんだろう」というharuの言葉が静かに胸を打つ。