才能をひらく編集工学 世界の見方を変える10の思考法
著 者:安藤昭子
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
ISBN13:978-4-7993-2667-1

眠れる想像力を目覚めさせる方法

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

原田淳子 / TRCデータ部
週刊読書人2020年11月20日号


 IT化がすすみ、あらゆる情報、知識が簡単に手に入るようになったが、それで自由が増したといえるだろうか。検索結果上位のものしか見なくなり、差し出されるパーソナライズされた記事や広告に、自分の思考や心まで固められるように感じる。膨大な情報や知識をどのように扱えば、もっと自由に考え、行動できるのか。編集工学はそこに切り込んでゆく。

 著者は、「編集」の概念と仕事を拡張してきた松岡正剛に学び、松岡が所長をつとめる編集工学研究所で専務取締役として采配を振る。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発など、多領域にわたる課題を解決し、新たな価値を創造している。

 ここでいう「編集」は、わたしたちを取り巻くあらゆる「情報」に関する営みのことだ。情報を取り扱う「編集」の仕組みを明らかにし、人々と社会の力として応用してゆこうとする方法論の体系が「編集工学」である。この本では「世界と自分を結びなおすアプローチ」として10の視点を提示する。複雑に見えるものを、まず「わける」という方法。思考の枠組みに自覚的になることによって固定観念から脱する「飛び移り」の技法。似たもの探しから始まる柔らかな戦略思考「アナロジカル・シンキング」。原型をたどり、前提ごと問い直す「そもそも思考」などである。

 そのひとつ「アナロジカル・シンキング」は、既知の領域を未知の領域に当てはめて想像することである。水源、貯水、水流、水圧を、電気に当てはめると電源、蓄電、電流、電圧となる。目に見えない電気の様子を水にたとえて理解する、これがアナロジーだ。わからないことを理解したり、まだ見ぬものを発想したりするためのアナロジカルな思考方法は、日常生活でも科学や芸術などの探究過程でも力を発揮する。たとえば、編集工学研究所が運営するイシス編集学校では、トレーニングジムになぞらえて読書を習慣づける「多読ジム」という講座をつくった。では、どのようにアナロジーを起こしてゆくのか? あるものを別の領域の「何かにたとえる」、まったく異なる分野で「似ているものを探す」のに必要なのは、個々人の想像力である。アナロジーは、個人の経験や記憶のデータベースと照合しなければ動かない。新しい仕組みがほしいとき、他所からモデルを借りてくる。そのために個人のイマジネーションを積極的に活用する。借りる×自分の想像力、できるかもしれない!

「才能をひらく「編集思考」10のメソッド」という演習も用意されている。気軽に取り組めるものばかりだが、自分の眠れる想像力がじわじわと刺激され、やがて解放されるのを実感する。

 世界は、便利で効率的で安全で迅速な方向に編集されてきた。それでよいこともたくさんあったが、窮屈に感じることもある。最適化されたがつまらない世界に生きるのか? いや一人一人が持つ想像力が、自由と多様性をもたらす世界をめざしたい。編集工学はそのような希望をつなぐ方法論だ。