そらののはらのまんなかで
著 者:金子みすゞ
出版社:JULA出版局
ISBN13:978-4-577-61006-0

頬をくすぐる風のように

「おやこでよもう!金子みすゞ」シリーズ

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

山田万知代 / 文京区立小石川図書館(指定管理者)
週刊読書人2020年11月20日号


 金子みすゞの詩は、テレビのコマーシャルや子ども番組、小学校の教科書などで、なんとなく知っている方も多いだろう。「みんなちがって、みんないい」「こだまでしょうか」のように一部を切り取られ、もはや誰のものかわからなくなっても、人びとの心に残るものがある。

 若くしてほぼ無名のまま亡くなり、忘れ去られ、その後熱心な詩人や出版社によって全集が刊行され、今に伝えられる金子みすゞの詩。詩人の遺稿そのままの形で編集された全六巻『金子みすゞ童謡全集』が現在、みすゞの作品の全体を知る決定版となっている。

 とはいえ全集、それも詩の全集をもとめる人は、よほどのファン以外には少ない。図書館でも全集の棚の資料は、なにか仕掛けやきっかけをつくらないと手にとっていただけない。そのため、この全集を基にした、より手にとりやすい形の本は、小学生向けも含めて多種つくられてきた。さらに昨年秋から、幼い子とその親に向けた絵本の形で、みすゞの詩を伝える試みが続いている。『おやこでよもう!金子みすゞ』がそれで、タイトル通り子どもが保護者と共に楽しんでもらうことを目的につくられている。

 幼子が親に抱っこされて開くと、ちょうど顔が隠れるくらいのサイズで、1冊に10編の詩が、絵と共に描かれている。子育て中の画家が絵を描き、著名人でやはり子育て世代の方がナビゲーター、最後に監修者で童謡詩人の矢崎節夫が解説している。

 第一弾は絵本作家の高畠那生が3冊、くっきりとした色とポップな絵で、みすゞの世界観をこれまでと真逆から描き、好評を博した。

 続いてこの夏に刊行された『そらの のはらの まんなかで』は、ふわりとした優しい絵が特徴である松本春野の絵による。開いた画面いっぱいに、子どもの目の高さから、のびのびとした世界が広がる。それは、小さな女の子が、かみなりの子の手をつかんで大きくジャンプするシーンだったり(「くも」)、お姉ちゃんが弟の手をひいて雨あがりの庭に立ち、かたつむりと目を合わせている一瞬だったり(「あめのあと」)、雲と月がぶつかるコミカルな場面だったり(「つきとくも」)。この絵によって、みすゞの静かなまなざしを通したことばが、子どもの目の前の風景となり、頬をくすぐる風のように、立体的に立ち上がってくるさまは見事としか言いようがない。

 画家の松本春野はいわさきちひろの孫で、その著名過ぎる祖母の存在のため画家を志すのを躊躇ったこともあった、という。そういえばちひろの絵も、みすゞの詩同様、誰もがなんとなく知った気になっている。「ああ、あの優しい絵でしょ」というひとことで括られることもあるその絵は、実は確かな観察とデッサン力が根幹にあり、平和への強い願いが込められている。春野の絵はそれを受け継いでいる、と言われることもあるのかもしれない。優しい、ふんわり、でも力強い。プラスそこに、今を生きる松本春野らしさが加味されている。この絵のために、みすゞの詩が、また新しい力を得た。昭和初期のみすゞの詩を、令和の子どもたち、お父さん、お母さん方に伝えていくために、この絵が必要だ、と感じた。

 親子でなくとも、声に出して、この空気感を感じてほしい。そうして好きな一編を見つけたら、いずれ、みすゞの全集を開いていただけたら、と願っている。