人生で大事なことはみんなゴリラから教わった
著 者:山極寿一
出版社:家の光協会
ISBN13:978-4-259-54773-8

そして、私たちが教わった大事なこと

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

横山英子 / TRCデータ部
週刊読書人2020年11月20日号


 ゴリラが好きだ。動物園でガラス越しだが間近で目が合ったときの鳥肌がたつようなゾクゾクした感覚が忘れられない。だから、40年以上にわたってガラス越しではなくゴリラと向き合ってきた著者が、ゴリラを前に何を感じ、何をゴリラから教わったのかに非常に興味をもった。

 もともとニホンザルの研究をしており、ニホンザルとの違いからゴリラを理解しようとした著者は、アフリカのさまざまな場所でゴリラを観察するにつれ、ゴリラといっても種類や住む場所によって姿も性質も異なることを知った。さらに出会ったゴリラ一体一体に名前をつけ、長期間にわたって観察を続けることで、個体によって性格や行動パターンも全く違っていることがわかった。そして、それぞれの個性を知ったうえで行動を予想し対応することで、うまくゴリラたちと付き合うことができるようになったのである。著者がゴリラに教わったことの1つは、「個」の大切さであった。

 著者はまた、ゴリラが子どもの頃から頻繁に行う胸たたきの動作は、自己主張の表現であると指摘する。相手の反応を見ながら胸たたきを行ない、相手もそれに応じて胸をたたくということを繰り返し、仲良くなっていく。人間も同様で、信頼関係を築くためには自己主張がかかせないということを、ゴリラの子どもの行動を観察することにより教えられたのだ。

 ゴリラの群れは常に一緒に行動をするという。一度群れを離れたものは、もう仲間として受け入れられなくなるそうだ。言葉を持たないゴリラは、ずっと一緒にいることで仲間の行動を把握し、それが信用につながっている。人間は言葉を獲得したため、しばらく会わなかった相手とも話をすることで一緒にいなかった時間を埋めることができる。しかし一方で、意味を持つ言葉というものを使うことで、本心とは別のことが伝わってしまう可能性が出てくる。獲得してしまったが故にやっかいな言葉を、人間は注意して使わなくてはならない、ということも、ゴリラの群れが教えてくれたことだった。

 ゴリラに著者が教えられたこと、そしてこの本を通じて私たちに伝えてくれたことは、人としてどう生きるか、という生き方そのものだった。だが、私たちは著者からそれ以上のことを教わる。それは、知への真摯な姿勢だ。すでに誰かが発見したことを教わったり、それが書かれた本を読んだりするのではなく、著者のゴリラを知る方法はまさに体当たりだ。実際に自分の目でゴリラの行動を見、ゴリラの発する声を聞き、どのような状況下でその声が発せられるかを推測し、何度も確かめて確信する。そして、自分もその声をまねすることで、ゴリラの群れに認められ、群れの中に入って観察することを許される、ということを繰り返す。そのようにゴリラに真っ直ぐ向き合い、人生で大事なことをゴリラから教わったという著者から私たちが教わったことは、人生における本当の学びのあり方だった。