やさしい日本語 多文化共生社会へ
著 者:庵功雄
出版社:岩波書店(岩波新書)
ISBN13:9784004316176

やさしい日本語 多文化共生社会へ

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

立川幸平 / 神奈川県立図書館
週刊読書人2020年10月16日号(3361号)


 最近,街で外国語を耳にする機会が増えた。通勤手段が徒歩から電車に変わったために感じたことかと思ったが,県内の定住外国人は増加しているそうなので気のせいではないようだ。

 多文化共生社会において,異文化間コミュニケーションは重要な課題である。学校では英語教育が積極的に取り入れられているものの,英語を母語としない国は多く,日本国内では日本語が共通語としての機能を持つことになる。その際,普通の日本語よりも「やさしい日本語」が共通語としてより有効である,というのが本書における筆者の主張だ。

 やさしい日本語とは,日本語に不慣れな人が理解しやすいように配慮した文章で,具体的な対応例として,短く簡単な文章にする,あいまいな言葉は使わない,漢字の上にルビを振る,などがある。この試みは,阪神・淡路大震災で被災した外国人が十分な情報を手に入れられなかったことをきっかけに考案され,近年は平時にも日本語を母語としない人に対する情報提供手段として用いられている。図書館においては,ホームページや利用案内で使用するケース,やさしい日本語で記述されたLLブックや運用の手引きに関する資料を収集するケースが見られるが,いずれも普及の途上に感じられる。

 やさしい日本語には「易しい」と「優しい」という二つの意味が込められている。外国人や障がい者といった言語的マイノリティーにとって日本語の習得は簡単ではない。まずは「易しい」日本語を習得し,地域と交流を図りながら社会に溶け込むことによって,自立した生活を実現することが期待される。そのためには,日本語を母語とする我々が「優しい」日本語を意識したコミュニケーションに努める必要があることも忘れてはならない。