ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか
著 者:田野大輔
出版社:大月書店
ISBN13:978-4-272-21123-4

爆発するリア充
(あるいはこの生き辛い世の中について)

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

小勝洋平 / 八千代市立勝田台図書館(指定管理者)
週刊読書人2020年12月4日号


 何故そんなことをするのか、僕には理解できない。

 2020年5月23日。一人の女性が自ら命を絶った。彼女は、いわゆる「恋愛リアリティー番組」に出演していたプロレスラーで、番組内での言動がきっかけとなり、SNS上で数多の誹謗中傷を受けていたという。 どうして、会ったことも無い人に、死へ追い込むほどの酷い言葉を浴びせられるのだろう。どうして、そんな惨いことをする人が、この社会には沢山いるのだろう。いくら考えてみても、僕には分からなかった。しかし、この本と出会い、その答えがやっと見つかった。

 本書は、歴史社会学の教授である著者が実施してきた、「ファシズムの体験授業」というユニークな講義を紹介しながら、ファシズムの仕組みを解説するという内容になっている。 この授業のハイライトは、約250名の学生が白シャツにジーパンという装いでキャンパスに現れ、ベンチでいちゃついているカップルに対し、「リア充爆発しろ!」と糾弾するシーン。どんな授業か気になるって?すみません、ここでは紹介しきれないので、詳細は本書を手に取り、ご自身の目で確かめてください。

 ここでは、その講義の中心的なテーマとされている、「普通の人間が残虐な行動に走るのはなぜか」という問いに着目したい。これこそが、僕の知りたかったことなのだ。 本書にはその答えとして、「独裁者などの権威へ服従した結果、人びとは自身の行動への責任から解放され、日頃の不満や鬱憤を晴らすために、敵と認定した相手を攻撃するようになる」ということが書かれていた。 嚙み砕いて言うと、「偉い人がやれって言ってるから、俺はアイツを攻撃しているだけだ。アイツを傷みつけるのは、ストレス解消にもなるし、丁度いいや。」という原理で、残虐な行動が生まれるのだという。 おそらく、冒頭で触れた事件でも、SNS上の雰囲気が「権威」となり、彼女はバッシングを受けて当然だと思い込んだ人が多数生まれたことが、最悪の結果に繫がったのだと思う。

 さて、この本を読んで、人が残虐な行動に走る原理が分かったが、ここで問題の根本は何だろうと考える。思うに、多くの人が当然のように、日々の暮らしの中でストレスを溜めている現状がいけないのではないか。もし、みんなが心穏やかに過ごしていれば、誰かを攻撃して、憂さ晴らしをする必要なんて無いのではないか。

 結局は、この〝生き辛い世の中〟がいけないんじゃないか。やれやれ、とんだところに生まれてきてしまったものだ。