学術書を読む
著 者:鈴木哲也
出版社:京都大学学術出版会
ISBN13:978-4-8140-0301-3

専門外の学びを考える

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

中尾優子 / TRCデータ部
週刊読書人2020年12月11日号


「学術書の読書」をテーマとするこちらの本、執筆のきっかけは二通のメールだという。一通は著者が専務理事・編集長を務める京都大学学術出版会の「専門外の専門書を読む」読書会に寄せられた大学院生のメール、もう一通は新聞社に届いたという大学生のメール。それらから共通して読み取れるのは「専門外」の知を学ぶことの困難さだった。

 昨今、大学で「専門外」の講義を受けることはなかなか容易ではないようだ。一般教育、専門教育科目という区別はとうに廃止され、いわゆる「専門志向」、学問の細分化が進んでいる。

 学生個人で本から学ぶにしても、新刊点数が毎年7万点余りもある。一方で学問の中心は学術雑誌にあり、本を書くことが業績にならないという状況で、それぞれの分野の「定番書」から選書するといった方法も難しい。

 さて、きっかけは学生の、専門外にも学びたいことがあるがカリキュラム的にも時間的にも学べないという声とはいえ、この本は学生向けに学術書はこう読むと分かりやすい、効率的だ、といった類の読書法を教えるものではないし、各分野の基本書リストでもない。もっと根本的なところから、かつ広く、「学術書の読書」を扱った書となっている。

 第1部は、学術書を読む意味、そもそもなぜ専門外の読書が重要なのかといったところから説き起こされている。第2部では、専門外の専門書をどう選ぶかを扱っており、自らの専門分野からは遠い分野、自らの専門に比較的近い分野、古典、現代的課題についての本、の4つのカテゴリーに分け、例を挙げながらそれぞれの選書法が提示される。第3部では、速読・多読法や「読書本」の隆盛、「知の評価」の在り方等をとりあげ、現在の学術知の状況を作ってきた社会要因までを考察している。

 学術書の読者であるだけでなく、これから学術書の著者ともなり得る学生、研究者の方々には、学術研究の深め方と同時に学術知の社会還元について考える大きな手掛かりになるのではないかと思う。

 また、学術の世界に身を置いていない私のようなものにとっても、本書で学術書をとりまく状況を理解し、選書の方法を知ることで、仕事や解決したい問題に関係する知識の取得に学術書を活かすことができそうである。