平成16(2004)年
2月11日 吉野家が牛丼販売休止へ。
BSE問題で米国産牛肉の輸入が禁止されたため。牛丼から豚丼へ。
オレの東大物語 1966~1972
著 者:加藤典洋
出版社:集英社
ISBN13:978-4-08-789014-3
死の床で記された在りし日の熱気
肉声を聞くような、飾らぬ生き生きとした筆致
週刊読書人2020年12月11日号
炎熱納まらぬ八月も末の午後、「謹呈 著者」の送り状とともに本書が届いた。「
「フーテンの夏」を謳歌していた加藤さんを「暴力学生」へと一変させたのが東大闘争だった。息をもつかせぬ顚末は本書で堪能されたい。著者の出会った傑物たち――藤井貞和、長谷川宏、大西廣、今井澄、山本義隆、秋田明大らが象徴するように、闘争からは梁山泊ともいうべき異空間が現出した。しかし、著者の「闘争」は挫折へと向かう。文学をめざしたはずの著者は何も読めなくなり、最後に心に響いたのは中原中也の詩だけだった。「闘いは勝利だった」とする時計台放送の終結宣言への懐疑、「王様は裸だ」という自覚が、加藤さんを文学から批評へと向かわせた。
二三〇ページ近い本書を、加藤さんは死の二ヶ月ほど前の病室で、わずか二週間で書き上げた。全編のむせ返るような熱気が、在りし日の「文学少年」を思わせる。晩年の著作は、往々にして書き手の衰えを感じさせるが、死の床で記された加藤さんの三つの「レイト・ワーク」は、解説の瀬尾育生が「書く病気」と形容したように、衰えどころか最盛期にも見られなかった「あたらしい文体」を示し、しなやかな勁さ、飾らぬ生き生きとした筆致に驚かされる。著者とその時代をモノトーンの鉛筆画で悼んだ南伸坊の装丁・装画も感慨深い。「当時の全闘連の中心人物の一人」として本書に登場する在野の哲学者長谷川宏さんは「惜しい人を亡くした」としみじみ述べた。筆者も十数冊の加藤さんの著作を装丁し、幾度か心置きなくお話する機会に浴した。本書を閉じ、しばし目を瞑る。今度こそ、ほんとうに加藤さんは逝ってしまった。(かつらがわ・じゅん=装丁家・イラストレーター)
★かとう・のりひろ(一九四八―二〇一九)=文芸評論家・早稲田大学名誉教授。東京大学文学部仏文科卒。文学から文化一般、思想まで日本の近現代の幅広い分野で活躍。著書に『言語表現法講義』(新潮学芸賞)『敗戦後論』(伊藤整文学賞)『小説の未来』『テクストから遠く離れて』(二冊で桑原武夫学芸賞)『敗者の想像力』『9条入門』『大きな字で書くこと』など。