ふるさとって呼んでもいいですか 6歳で「移民」になった私の物
著 者:ナディ
出版社:大月書店
ISBN13:9784272330966

ふるさとって呼んでもいいですか 6歳で「移民」になった私の物語

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

藤谷千尋 / 京都府立洛西高等学校図書館
週刊読書人2020年10月30日号(3363号)


 「ビザのない外国人」として日本で成長してきた少女と家族の軌跡を,当事者である女性が描く。日本にルーツがある大人にも読み応え十分だが,すべての漢字にふりがながついているので,子どもや日本語学習途上の人にも読みやすいだろう。

 著者はイランの比較的裕福な商家に生まれたが,1991年,6歳の時に両親や二人の弟とともに来日,以来日本に住み続けている。著者の両親が来日を決めたのは「デカセギ」のためだ。それは,イラン・イラク戦争による経済状態の悪化や盗難などの要因で父親の商売が立ち行かず,大きな借金を抱えてしまったからだった。当時日本はバブル崩壊前の好景気。イランからもビザなしで来日できたので,多くのイラン人が就労ビザを持たずに工場等で働いていたらしい。現在よりも超過滞在に対する取り締まりも緩やかだったようだ。

 著者は当初こそことばやカルチャーギャップで苦労をしたようだが,子どもの順応性は高く,また著者自身の努力や近隣の人,支援団体等の手助けもあり,日本のことばや生活になじみ,かつイスラムの教えとの整合性も保ちつつ成長していく。その過程は明るいタッチで描かれているが,正規の在留資格を持っていないため,保険に入れないので大けがをしても通院を控える,父が警察に捕まる等苦労も絶えない(のちに「在留特別許可」を得る)。悪条件の中懸命に働く両親を支え,弟たちの面倒を見て,周りに迷惑をかけないようにと奮闘するけなげな少女の姿に目頭が熱くなる。

 これから増えていくだろう異文化ルーツを持つ人々や子どもたちとどう接していくのか,どういう法整備,社会づくりが求められているのか,この本は大きなヒントを与えてくれる。

 私は,日本にルーツを持つ一人として「ふるさとと呼んでくれてありがとう」と著者に言いたい。