がん外科医の本音
著 者:中山祐次郎
出版社:SB クリエイティブ(SB 新書)
ISBN13:978-4-8156-0247-5

がん外科医の本音

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

山本みづほ / 長崎純心大学・長崎短期大学 非常勤講師
週刊読書人


 がんに関するトンデモ本は巷に溢れている。白衣を着て聴診器を下げた顎から下の写真の表紙『医者の本音 患者の前で何を考えているか』(2018),そしてブルーの手術着を着て聴診器を下げた首から下の写真の表紙の本著を,書店で見かけた方は多いだろう。あっ,また医師の暴露本? と思われたのではないだろうか。2人に1人ががんにかかるという現在,私の両親もがん患者だった。母は今年17回忌,父は93歳で今も元気だ。

 本書の著者は,大腸がんの専門医で,2,000件以上の手術に参加している,医者になって13年の現役医師だ。どうしても日常の分刻みの診療時間では伝えられないことを,何とかして患者に伝えたいという熱い思いから書かれた著作は,小説を含めて5冊になる。どの著作にも著者の魂が込もり,家族や友人の闘病に正面から向き合った体験を持つ私には,その思いが染み入るように伝わった。そうそう,こんな情報が欲しかった。それをわかっている医師がいる。閉じた医療業界に風穴を開けたいという使命感から,現役医師がここまでのことを書くには相当な覚悟があったに違いない。実際,書き上げた後医者を続けられるのか? と悩んだこともあったという。

 長い教員生活の中で,親のがんと向き合わねばならない生徒を私は何人も見てきた。子どもだからと説明してもらえず,悶々としていたあの生徒たちに,今ならこの本を手渡せるのにと思う。中高生なら,十分に理解できるほどわかりやすく書かれている。また,医師を目指す生徒にも薦めたい。医療現場の真実を知るにも最適の本である。

 Yahoo!ニュースやSNSでの発信も多い著者の熱い人柄に触れながら,「がんにかかることは,雨降りのように自然なこと。あなたも悪くないし,誰も悪くない」(p.246)ということばを胸に刻みたい。