あいまいな喪失と家族のレジリエンス 災害支援の新しいアプロー
著 者:黒川雅代子ほか編著
出版社:誠信書房
ISBN13:9784414416510

あいまいな喪失と家族のレジリエンス 災害支援の新しいアプローチ

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

南波佐間望 / 福島県立図書館
週刊読書人2021年1月1日号・2020年12月25日合併(3371号)


 「あいまいな喪失」は,ミネソタ大学のポーリン・ボス氏が提唱する概念である。東日本大震災後,被災地でのメンタルヘルスケアに従事していた福島県立医科大学の瀬藤乃理子氏らがボス氏を訪ねたことをきっかけに,瀬藤氏を含む編著者らがボス氏より学んだ理論を紹介するのが本書だ。

 喪失しているかどうか自体がはっきりせず,終結さえわからないあいまいな喪失には,「さよならのない別れ(行方不明,親の離婚など)」と「別れのないさよなら(住んでいた土地や家に戻れない,認知症など)」の二つがある。二つのタイプは同時に経験されることや,受けとめ方によって同じ経験がどちらのタイプにもなることがある。

 支援者にはあいまいではない喪失(特に死別)とは異なる支援が求められる。「人生のコントロール感を調整する」「希望を見出す」といった,介入のガイドラインが示されるとともに,家族やコミュニティとの関係性がもたらすレジリエンス(回復力)を活性化するための理論が展開されていく。「未来が良いものであるという信念」(p.26)というボス氏の「希望」の定義が印象的だ。

 第4章ではあいまいな喪失に向き合う3組の家族が紹介される。特に「夫と母親が認知症の真紀子さん」の物語は,多くの読者にとってリアリティのある事例だろう。物事の善し悪しの判断基準を教えてくれた実の親を介護するという関係性の揺らぎに対して,自分の時間を確保し人生のコントロール感を維持することの重要性(それは日本の介護現場で抜け落ちている視点でもあるだろう)が,あいまいな喪失という「レンズ」を通じて見えてくる。

 喪失のその後に希望を持ちながら生きていくことは誰にとっても容易なことではない。終わりのない悲しみを,知識がゆるめてくれることがあると信じられる読書体験だった。