生き物の死にざま
著 者:稲垣栄洋
出版社:草思社
ISBN13:978-4-7942-2406-4

生きて死ぬという自然なこと

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

久保田浩 / TRCサポート事業推進室
週刊読書人2021年1月8日号


 著者は農林水産省、農林技術研究所の研究員を経て大学院農学研究科の教授。ただその深い造詣と愛情は植物・昆虫に留まらず、哺乳類から海洋生物にまで及ぶ。本書は身近な29の生物の生態と「死にざま」を簡潔なエッセイで紹介している。既知の内容もあるが、全く初耳の驚くべき事実も多く、読んでいて単純に感心させられる。「ルカ」と呼ばれる「全生物最終共通祖先」(なんとわくわくする言葉)の話、5億年も生き続けているかもしれない1匹のベニクラゲの話、蚊は口に針を6本持ち、2本ずつ機能別に使い分けて雌だけが血を吸う!!など。知的好奇心を存分に刺激する、優れた動物行動学の書と言えるだろう。そして秀逸なのは本書に一貫して流れるテーマ。生き物の生へのひたむきさと、死に際しての潔さ、そして命の儚い美しさである。これらも人間の価値観が創り出した概念に過ぎないが、その様な言葉でしか言い表せない、生き物たちの生死が繰り広げられる。それぞれのエッセイの終盤には、命の最後の場面が短く情景描写されているが、思わず涙ぐんでしまうエピソードも多い(それがたとえアブラムシでも)。加えてドキリとさせられた幾つかの言葉、「子育てをすることは、子どもを守ることのできる強い生き物だけに与えられた特権」、「老いて死ぬことは、生物が望んでいること」など。とかく人間は物事を難しく、複雑に捉えすぎなのではないかと自省させられる。他種とはいえ同じ地球上の時間を生きる生物から、何かしらインスピレーションを受けて、自身の身に置き換えてみるのも面白いだろう。後半、ニワトリ、ネズミ、イヌのエッセイもあるが、この3種だけは人間により食料、実験サンプル、愛玩道具として「製造」され大量消費される現状にも触れられている。「残酷」と一言で片付けるのは簡単だが、人間のそれの規模と効率が桁違いなだけで、本質はこれも捕食・生存を最優先とする弱肉強食の一つの姿なのかもしれない。文章自体は平易で分かりやすく、中学生以上なら本書の意図するところを十分に感じとる事も可能だろう。もちろん一番読んでほしいのは、生老病死に悩みモヤモヤした想いを抱える大人達である。生きる=死ぬ事は案外単純な事だと、少しだけ気持ちが軽くなり、すっきりすること請け合いである。昨年7月に続刊の『生き物の死にざま はかない命の物語』も刊行された。