Think right
著 者:ロルフ・ドベリ
出版社:サンマーク出版
ISBN13:978-4-7631-3803-3

なぜ人は不合理な選択をしてしまうのか

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

増嶋啓太 / TRCサポート事業推進室
週刊読書人2021年1月8日号


 著者ロルフ・ドベリさんの本は『Think clearly』『Think Smart』に続くシリーズの三作目ですが、海外では、こちらが最初に出版され最も読まれている本だそうです。本書は人生において様々な大事な場面において意思決定を行う際、間違った選択をしないよう誰もが陥りやすい52の「思考の罠」を心理学や科学実験を根拠にわかりやすく説明しています。そのうちの一つ、サンクコストの罠を紹介します。

 サンクコストとはもはや回収できない費用のことで埋没費用とも言われています。あなたが友人と見に行った映画が期待外れな内容だったとします。あなたは席を立って「この辺で切り上げて帰ろう」と言いますが、友人はチケット代がもったいないと言って席を立とうとしません。私たちが美徳としている「もったいない」にも罠が潜んでいるのです。ビジネスの世界でこの罠に嵌ると取り返しのつかない失敗に繫がります。事業の妥当性を検討するときに、より客観的な状況分析に基づく見通しより、すでにつぎ込んだヒト、モノ、カネを重視して多大な投資をしたことが、その事業を継続する理由となっていることが多々あります。投資額が大きくなればなるほど、今、中断したら事業の損失(失敗)が確定してしまうという恐怖心に打ち勝つことができず、せっかくここまで努力を積み上げてきたのだから、もう少しだけ様子を見ようと好転の見込みもないまま事業を継続してしまう、そんな実例として、かつてイギリスとフランスで実行された共同開発プロジェクト「超音速旅客機コンコルド」を用いて説明しています。実は両国とも開発初期段階において超音速旅客機は採算がとれないという事実に気づいていたのです。しかし、両国の面目とプロジェクトの一貫性を保つだけのために旅客機完成まで巨額の資金が投入され続けました。サンクコストの罠はしばしば「コンコルドの誤謬」とも呼ばれているそうです。著者は、ビジネスにおいては、この罠に嵌ると費用がかさむばかりでなく、決定的な失敗に陥ることになると警告しています。昨日(過去)に固着するあまり、今日の分析と明日(未来)への見通しを歪めてはいないか冷静に考えることが重要であり、これまで費やした資源を無視して、はじめて合理的な決断ができると述べています。

 本書では合理的、論理的に考えることの重要性が解説されていますが、著者は「おわりに」の中で「あらゆる意思決定において時間をかけ、合理的に判断することは不可能で、場面、場面によって直感的思考と論理的思考を使い分けることが大事」だと述べています。また失敗してもそれほど大きな問題にならない状況では、直感に任せたほうが適した場面もあるとも述べています。本書の活用法として、まず自分の思考パターンを振り返り、繰り返して同じ思考パターンで失敗してないか検証してみる。自身の不合理な思考パターンを予測することができれば、将来より重要な場面でリスクを減少させ、より良い選択に繫がるのではないかと考えます。