マンガ! 大英博物館マンガ展図録
著 者:ニコル・クーリッジ・ルーマニエール/松葉涼子(編)
出版社:三省堂
ISBN13:978-4-385-16248-5

大英博物館で見るマンガ

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

半澤祥子 / TRCデータ部
週刊読書人2021年1月8日号


 2019年に大英博物館で開催された企画展「Citi マンガ展」図録の日本語版。ミイラやロゼッタストーンを収蔵するあのロンドンの大英博物館が、日本のマンガをどのように取り上げるのか興味を持った。

 内容は、展示のメインである読んで楽しいマンガ作品の数々と、いくつかの論考、漫画家をはじめマンガに関わる様々な人へのインタビューなどで構成されている。全6章それぞれのテーマに沿った作品が沢山収録されているが、右開きに読んでいく日本のマンガを左開きの図録に収録しているため、「この作品を正しい順序で読むには、〇ページから読み始めて、△ページまで戻ってください」のようなガイドが付く。欄外に読み進めるコマの順番を数字で示してあり、そういえば自分も小さいころ読む順番が分からなかったなあと思い出す。

 講談社・集英社・小学館・白泉社の各編集者へのインタビューでは、どの作品を雑誌に載せるかのシビアな判断基準に考えさせられ、コミックマーケットの主催者の話では、同人誌という習作の段階からマーケットで評価を受けるのは日本独特のものであることが分かる。特に気になったものに、漫画家の竹宮惠子による、マンガ原稿をアーカイブ化して保存と公開を両立するための〝原画ダッシュ(原画‘)プロジェクト〟がある。作者に許諾を得た生原稿を元に、アシスタントにトーンを指示する鉛筆の書き込みや汚れなども忠実に再現して、鑑賞に堪える精巧なレプリカを作るというもの。元の原稿を出さないので劣化も防げるし、国内外の美術館などからの要望に応えて貸し出すこともできる。原画ダッシュを1点作るのに何日もかける細かい作業をものともしないのは、竹宮惠子が漫画家であればこそか。

 マンガの読み方の章では、こうの史代による『ギガタウン漫符図譜』が面白い。マンガを読む上でのお約束の記号である漫符(人の上にZZZ…を描くと眠っている様子を表す…とか)を、意味や使い方と共に4コママンガ中に入れ込んだ漫符事典になっている。

 日本のマンガを理解してもらうために、どのように説明したらわかりやすくて、楽しんでもらえるかの工夫があり、インタビューの多さからも丁寧な取材が感じられた。どうしてこの漫画家が、このジャンルが紹介されないのかと思ったりもしたが、多種多様で豊饒な日本のマンガの中から展示会のキュレーターが切り取った「マンガ」の姿として素直に楽しみたい。