日本ワインの夜明け 葡萄酒造りを拓く
著 者:仲田道弘
出版社:創森社
ISBN13:978-4-88340-343-1

先人たちの心意気に我々は何を学ぶか

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

宮川昌一 / TRCサポート事業推進室
週刊読書人2021年1月22日号


 皆さんは、国産ワイン、日本ワインの違いをご存知だろうか。

 国内で収穫されたブドウだけを使って日本国内で製造されたワインを「日本ワイン」と呼ぶ。日本国内で製造しているが、海外のブドウで造った原料ワイン、濃縮果汁を使用してできたワインは日本ワインと呼称せず、国産ワインと位置づけられ日本ワインとは区分される。

 このように明確な区分が法で定められてから、実はまだ数年しかたっていない。

 細かな定義の話は別の機会に譲るとして、近年、海外での評価が上昇している日本ワイン。この日本ワインの始まりの頃について書かれたのが本書である。

 本書は、3章構成になっている。第1章は明治期の日本のワインについて第2章、第3章は明治以降の日本におけるワイン造りを支え、牽引した人々の話が、時代のくくりで分けて紹介されている。

「明治3、4年(1870、1871年)のころ」に甲府の山田宥教と詫間憲久が、販売を目的としてワイン造りを始めたのが日本のワイン造りの始まりであったようだ。開かれた時代に向けて各地にて民間有志によるワインづくりがスタートし、国も殖産興業のひとつとして官営の葡萄園やワイン醸造所を創設し始める。明治10年(1877年)には山梨の青年2人がワイン造りを学ぶためにフランスへ研修に行く、とある。

 その後、国の政策転換、品質や販売経路の問題、害虫による被害など幾多の困難が降りかかる中、信念をもって奮闘しながらバトンを渡していくことになる。この時代の熱量の多さを感じずにはいられない。

 本書の大部分は明治時代におけるワイン造りに関連して記述がなされている。そして、結章として、「その後」についてもまとめている。試行錯誤を繰り返しながら、日本の風土にあったワイン造りを目指し、日本ワインは着実に進化を遂げている。そして、さらなる発展に向け現在もあくなき探求が続けられている。

 著者の紡ぐ文章から、その時代時代の人々のワインにかける熱い想いへの敬意が溢れ読者を包み込む。当時の画像も多く掲載され、年表や系譜もシンプルにまとめられており、読み進めるうえでの登場人物の相関など理解の手助けをしてくれる。また、著者が日本ワインの歴史の中で重要な知見が得られたというエピソードも挿入されている。詳細はぜひ、本書にて実際にご覧いただきたい。

 読了すると無性にワインが飲みたくなる。現在の日本ワインが多くの人のたゆまぬ努力によってできあがったことに感謝しながらじっくりと味わってみたい。