わたしも,昔は子どもでした。
著 者:『子どものしあわせ』編集部 編
出版社:かもがわ出版
ISBN13:978-4-7803-1044-3

わたしも,昔は子どもでした。

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

吉村きみ / 瀬戸市立図書館
週刊読書人2021年1月8日号(3372号)


「わたしも,昔は子どもでした。」当たり前のことではあるけれど,とても興味を引くタイトルだ。月刊誌『子どものしあわせ』(日本子どもを守る会編 本の泉社)の巻頭インタビュー「私を育ててくれた人たち」を加筆修正してまとめられた本書では,17人の気骨あるおとなたちが自らの子ども時代を語っている。

 それぞれ活躍する分野が違うおとなたちの共通点は,社会に対し,自分の意見を臆することなく言えること。しかし彼ら彼女らは,最初からモノ言えるおとなだった訳ではない。それぞれの子ども時代を過ごし,育てられ,育ってきた。おとなとのかかわり方,そのエピソードも興味深いものばかりである。香山リカ氏は,立派な姿でなくても,おとなのありのままの姿を見て,子どもは何かをつかみ取り,勝手に育つものと言い,上野千鶴子氏は,父親から溺愛されるが,女だから期待されなかったため,好きなことができたと語る。池田香代子氏と大石芳野氏はおとなの愛情が大切だと言う。子どもは,早くてスムーズに育つより,居心地の悪さやモヤモヤしたものから学んでいくのが良いと語るのは,中野晃一氏だ。親が良かれと手出しをしたことで,子どもが潰れてしまうこともある。どれだけ失敗をしても,成功体験を一つ二つ持たせることが大切だと語るのは,金子勝氏。語られるすべてが,自身の実体験からなるものなので,説得力がある。それは,子どもがしあわせになるための方法であり,子育て世代へのアドバイスである。子育ての方法の正解は一つではない。

 イラストは,松本春野氏。エネルギッシュな語り手たちのページに,ほのぼのとしたタッチの挿絵をつけ,読者をしあわせな気分にしてくれる。子育てに行き詰まりを感じた時,悩んだ時にヒントとなるものがいっぱい詰まった一冊である。