食の歴史 人類はこれまで何を食べてきたのか
著 者:ジャック・アタリ著 林昌宏訳
出版社:プレジデント社
ISBN13:9784833423618

食の歴史 人類はこれまで何を食べてきたのか

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

島津芳枝 / 宇佐市民図書館,日本図書館協会認定司書 第 1147号
週刊読書人2021年1月29日号(3375号)


 人類の祖先がアフリカで採集生活を行っていた頃から,現在まで人間の食の在り方に関する世界各地,各分野の知見をまとめ,食に関するいくつもの未来を示唆した書である。

 明日にでも実現しそうな「インターネットに接続された腕時計が血糖値と血圧を常時計測し(中略)医師や保険会社は,インターネットに接続された冷蔵庫を利用して在庫状況を把握し,自分たちが課す食餌療法に見合う食物を摂取するように指導」(p.305)する未来。私たちはそれを望ましいと思うだろうか,それともおぞましいと思うのだろうか。栄養管理を丸投げできる「最先端の生活様式だ」と喜ぶのかもしれない。

 本書による食の未来予測は概ね暗い。世界人口は2019年に76億人であり,大きな変化がなければ2050年には90億人に達するとされる。さらに,家畜,魚,昆虫を養い,西洋諸国と同レベルの消費モデルを維持するには,世界の食糧生産量を70%引き上げなければならないという。これは実現可能だろうか。

 食料不足は遠い未来の「ありえない」話ではない。いつでも買えると思われていた物資が手に入らなくなる。そういう生活を私たちは本書の発刊直後に経験している。食料生産量の大幅な向上が実現不可能ならば,私たちは何をすべきなのだろうか。

 「人間らしい暮らし」を今後も続けるための解決策として,農業改革,食育,地産地消,少糖などいくつかの提案もなされている。大規模な提案は政治的である一方,小規模な提案はこれまでにも唱えられているものが多い。人間活動の中心であった「食」を他人任せのままでいるか,情報を集めて自ら考え,行動を変えるか。「食の歴史」に関心を持つことが行動の一歩になるだろう。