ユーモア解体新書 笑いをめぐる人間学の試み
著 者:佐金武/佐伯大輔/高梨友宏(編)
出版社:清文堂出版
ISBN13:978-4-7924-1478-8

ユーモアは何が、なぜ、どのように面白い?

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

多良幸恵 / TRCデータ部
週刊読書人2021年2月5日号


 人が笑うとはどういう現象か? 人はなぜ笑うのか? この問いは、古代から人類の知的好奇心を捉え続けてきた。本書はなかでも「ユーモアが引き起こす笑い」に焦点を当て、人文学の知を総動員して描き出そうとする。研究者らの究極的な目標は、ユーモアを解体することで人間の本性に迫り、新たな人間学を創出することだ。

 解体新書を称するだけあって、ユーモアと笑いを徹底的に、様々な角度から見つめ直しているのが特徴だ。執筆者陣の専門分野も多種多様である。1章では哲学者が「笑いについて研究しようとする者は、人間において生起しうるすべての笑いを自身が体験したことがあるのでなければならない」とユーモアと笑いを研究する難しさを語る。2章ではユーモアと笑いに関する主要な先行研究の概観と、探索のためのガイドマップが示される。そして、行動分析学でユーモアの共有と価値の関係を調べる3章、ユーモアの愉快さの正体は優越感だと主張する4章、自己卑下による笑い(自虐ネタや失敗談)の効用から関西人の心性を解き明かす6章、ヒトの進化の観点から笑いの起源と機能を説明する7章などが続く。音楽やパロディ漫画・二次創作、アリストテレスやアメリカの風刺画を、それぞれユーモアと絡めて研究する論文も収録されている。

 各々の専門分野からユーモアをみる視点と、専門分野におけるユーモアをみる視点が交錯し、ユーモア研究の奥行きと幅広さが実感できる本である。ユーモアや笑いに興味がある人なら、ひとつは「これぞ!」と思う論文に出会えるだろう。例えば6章はユーモラスな内容で読みやすい。関西人特有の心性(おもしろ失敗談を話すのも聞くのも好き!)を調査で明らかにし、その要因として関西の商人文化と関東のサムライ文化で「笑い」の受け止め方が違ったことを挙げる。さらには、自虐ネタが集団主義の日本社会を大きく変える可能性をも構想してみせる。

 本書は研究書だが、専門知識のない私でも大変楽しく読むことができた。いずれの論文も論旨や構成が明快でわかりやすく、各分野の基礎知識から丁寧に説明してくれるためだ。例えば3章では行動分析学の基本的な考え方・測定方法から簡潔に説明してくれる。分野の異なる執筆者たちで作り上げたからこそ、特定の知識を前提としない1冊に仕上がったのだろう。執筆者どうし互いの論文を参照しあうことで、意外な分野がつながり、新たな知見が生まれているのも面白い。ユーモアと笑い研究の世界に一歩足を踏み出したい初心者にこそ、頼りがいのあるガイドマップとしておすすめしたい。最後はあえてオチをつけずに、「おあとがよろしいようで」と後続研究に希望を託して締めくくるのもしゃれがきいている。