若い読者のための文学史
著 者:ジョン・サザーランド
出版社:すばる舎
ISBN13:978-4-7991-0941-0

文学の諸問題をわかりやすく解説

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

辻和人 / TRC仕入部
週刊読書人2021年2月19日号


 若い読者のための教養シリーズ、イェール大学出版局「リアル・ヒストリー」の翻訳の一冊。ブッカー賞の審査員もつとめる作家・文芸評論家のジョン・サザーランド氏が執筆している。

 文学とは何かという概論から始まって、神話・叙事詩・ギリシア悲劇などの古代の文学から、ディケンズやフローベールらの近代文学、ボルヘスや村上春樹らの20世紀以降の文学まで、著者が英国人故に多少英米文学の比重が多いながらも、バランス良く紹介されている。単純に年代順に流して紹介するのでなく、項目を立ててきちんと文学の問題を考えていくのが本書の長所。12章「フィクションの家」では、近代小説の前身となるラブレーやセルバンテスらの作品が考察され、25章「危険な本」では、ボードレールやロレンスらの作品を例に文学と検閲の問題が考察される。これらの問題を論じるにあたって、必ず社会との関係に鋭く言及することがすばらしい。作品への理解を深めてくれる。

 小説の影に隠れがちな詩の紹介が多いのも良い。文学という人類の生の営みの深淵を、もっともっと覗いてみたくなる。