ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論
著 者:デヴィッド・グレーバー
出版社:岩波書店
ISBN13:978-4-00-061413-9

あなたの仕事は世の中に意味のある貢献をしていると思いますか?

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

橋本昂彦 / TRC営業デスク
週刊読書人2021年2月19日号


 本書は、本田圭佑やトマ・ピケティが大絶賛した『負債論』などを著した、文化人類学者デヴィッド・グレーバーによる現代の労働に対する著作である。センセーショナルなタイトルでありながら、内容は深刻かつ鋭い考察に富んでいる。タイトルにもある、「ブルシット・ジョブ」とは、「被雇用者本人でさえ正当化することが困難なほど無意味で不必要な仕事」と定義されている。本書ではいくつか実例が挙げられているが、中でも強烈なのがスペインの公務員の例だ。彼は6年間本来の仕事をサボタージュして哲学者スピノザの研究に没頭していたが、6年間誰一人として彼の怠業に気が付かなかったのだ。6年間仕事が止まっていても、周囲の人が気づくことがなかったことは驚きである。こういった例が世界中いたるところに存在している。イギリスの世論調査によれば、「あなたの仕事は世の中に意味のある貢献をしていると思いますか?」という問いに対して、約4割もの人が「していない」と回答したという。上述のように、仕事をしなくても誰も気がつかなかったり、オフィス内のものを数メートル移動させるためだけに関係各所に連絡をして時間と人件費を無駄に使ったりするような労働があることは大問題である。さらにこうした労働は、従事者の精神を疲弊させている、と著者は述べている。こうした類の仕事が年々増加傾向にあることが、労働従事者のストレスを増幅させている。そしてもう1つ重要なことが、こういったブルシット・ジョブに就いている人の多くが高給取りであり、反対に必要不可欠な仕事・従事者が消えたら困る仕事に就いている人たちは安月給で、従事している仕事に見合った対価を得ていない、ということだ。緊急事態宣言発令下でも働き続けてくれた医療関係者、配送業者、土木従事者など、私たちの生活を直接支えてくれているブルーカラーの労働者はおおむね安月給だ。ブルシットな仕事を続けて精神を病んでしまうホワイトカラーと、薄給で過酷な仕事を続けるブルーカラーという2つの立場が現代の労働の闇であると著者は指摘している。著者は歴史的に労働観がどのように変遷してきたのかを考察し、「生産性」や「価値」といった仕事の評価基準を見直すべきだと述べている。そのために、すべての人が労働に対し自由に考えることを著者は促している。具体的な提案の一つとして、例えばベーシックインカムなどで万人の生活保障を敷き、生産性や価値にとらわれることなく労働ができる環境を整えることこそがブルシット・ジョブ撲滅への道だと述べている。グレーバーの提案の実現は容易ではない。万人の生活保障が実現したならば、働く人など絶えてしまうのではないかという懸念は拭えない。しかしコロナ禍で我々はあらゆる考え方を刷新することを求められている。コロナ以前の古い労働観を捨て、ニューノーマルな労働観を実装するための問題提起となる1冊である。