昭和レトロ間取り探訪 大大阪時代の洋風住宅デザイン
著 者:橋爪紳也
出版社:青幻舎
ISBN13:978-4-86152-811-8

住宅の図面を並べる意義

間取りから見えてくる時代の暮らし

石塚禎幸 / 建築士
週刊読書人2021年2月19日号


 本書は昭和初期に主に大阪の郊外で開発分譲された九つの街、一七六の住宅の図面が掲載された書籍である。文章はわずか十九ページ。ほぼすべてのページが住宅の平面図と立面図で構成されている。

 平面図を見ているとその時代の暮らしが透けて見える。この時代の世帯人数が五人、出生児数も二を超える程度であることを考えると親と子二人、加えて女中さん一人が家の居住者といったところ。そう考えると個室でこまごまと仕切られていない間取りは広く感じるし、お庭は本当に広い。分譲をした各鉄道会社の方々は田園都市の理想に燃え新しい様式の生活ができる街や家を作ろうとしたその気概が敷地の広さ、洋風の外観、応接間を備えた和洋折衷の間取りからも良くわかる。

 さて著者によれば本書に掲載されている図面類は研究のために集めた資料ではあるが間取り図そのものが魅力的なので、デザイン帳のように眺めて一世紀前の最先端の住宅を懐かしく遊ぶ、という趣旨でまとめられている。改めて図面を眺めてみる。武庫之荘住宅023號、当たり前だがCADのないこの時代はすべて手書き図面、しかもフリーハンドだ。大きさは一階二階合わせて約三十七坪なので今と比べ実はそんなに広いというわけでもない。玄関は内開き。これまでは引き戸がほとんどであった玄関は恐らく当時すでに建っていた洋館を参考に内開きにしたに違いない。間取りは玄関を上がって左手に応接室、そのまま縁側を通って居間、茶の間に通ずる。縁側の外はテレス。このゾーニングが和洋折衷で古来日本にある中間領域の縁側と西洋的外部空間であるテラスを組み合わせ、新たな生活様式として画期的な提案をしている。この平面図には畳の表現はないが居間は八帖、茶の間は六帖、応接室は八帖「大」と表記してあるところが面白い。居間、茶の間はこの表記から察するに図面での表現はなくても畳が敷いてあっただろうし、応接室は靴を脱ぎこそすれカーペットやタイルで仕上がった床であったのだろう。この畳を図面上表現しないことこそ和風の住まいからの脱却、新しい生活、夢のマイホームの「夢」の部分の表現なのではと深読みしてしまう。

 図面を並べることの意義はどこにあるのか。ここに描かれた図面は時期をほぼ同じくして大阪郊外につくられた分譲住宅である。すると図面の表現の違いは鉄道会社が作り出そうとしている新たな生活様式のプレゼン手法の違いともいえる。東豊中・豊中住宅地の平面図は定規を使って描かれており軽快な印象。また添えられた立面図代わりの外観パースはプレゼンとしての表現を際立たせる。317號の外観パースは秀逸で平面図や立面図では読み取れない庇端部の曲線、食堂前のパーゴラなど新しい住宅スタイルの提案がこれでもかというぐらいわかりやすく盛り込まれ表現されている。そんな鉄道会社ごとの意思を読み取るのもただ並べてあるからこそ感じることができるのかもしれない。

 新型コロナウィルスの影響で新しい生活様式を求められ、また在宅時間の多くなる昨今、本書を見ながら都心を離れ現代における次の郊外生活を夢想するのも良いかと思う。本書に書かれた「郊外生活-大空は広い 大地は豊かだ」という言葉を今噛みしめながら。(いしづか・よしゆき=建築士)

★はしづめ・しんや
=大阪府立大学研究推進機構特別教授・観光産業戦略研究所所長・建築史・都市文化論。著書に『大大阪モダニズム遊覧』『大阪万博の戦後史』など。一九六〇年生。