AB+(アルファベット・モア)
著 者:松田行正
出版社:LIXIL出版
ISBN13:978-4-86480-049-5

文字と記号のびっくり箱

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

細井美沙 / TRCデータ部
週刊読書人2021年3月5日号


 本書は、グラフィックデザイナー・装丁家であり、文字をこよなく愛する著者による、文字と記号のカタチ百科である。「点になった文字」「刻まれた文字」「垂直になった文字」「印になった文字」「崩された文字」などカタチにこだわった章立てが独創的で面白い。

 例えば「点になった文字」にはモールス信号や点字がある。点のみ(モールス信号は点と線のみ)でいかにアルファベットやイロハを表すか、開発者たちの苦心の跡が窺える。文字の使用頻度に応じて符号の長短を決めていたという話には納得すると同時に、今この文章を打っているキーボードの文字の配列も、元々は使用頻度やよく併用される文字同士が隣り合うようになど考えられて成立したものではなかったか(あくまで英語の観点からになるが)とぼんやり思い出し、1文字1文字が点の連なりに見えてくる不思議。

 古代、木や石に「刻まれた文字」である楔形文字には、物事を抽象化・普遍化するという意味で、これもまた現代の世界で広く定着しているスマホの絵文字に通じるものがあると感じた。

「垂直になった文字」ではナチスのシンボル・マーク「ハーケンクロイツ」の秘密に迫る。これについては本書を手に取ってぜひその目で確かめてみてほしい。

「印になった文字」としては、様々な分野で作業や伝達の合理化・効率化を目指し考案された記号群が紹介されている。例えば元素記号や動作記号、医療現場でカルテに使われる記号やチェスの棋譜記号などである。動作記号といえば、「▶」「■」とあれば今や誰もが瞬時に「再生」「停止」のことだと分かるのは、実は凄いことなのではないだろうか。

 日本の地図記号のいくつかは、文字をベースとして生まれた「崩された文字」にカテゴライズできる。なるほどカタカナの「テ」(当時の逓信省の頭文字)から成る郵便局の記号や、漢字の「文」の転用である学校を示す記号はほぼそのまま文字のカタチをしているし、太陽のように見える東京都章は「東」のアレンジだということが分かる。東京23区の区章で個人的に気に入っているのが千代田区の区章なのだが、これは1つの記号に「千代(よ)田」の3文字が崩れて凝縮されている一石三鳥な優れものなのだと改めて感心した次第。

 ところで、本書の最大の特徴はその装丁にあると言って良いだろう。蛍光オレンジのジャケットも目を引くが、ジャケットを外した図書本体は、背の糸綴じが剝き出しになった所謂コデックス装になっており、天地・小口は真っ赤に染められている。そして表紙と裏表紙は厚さ3ミリの非常に硬い厚紙(というよりもはや板)でできており、この作りがコデックス装と上手い具合にマッチして、表紙を開く感触はまるで箱の蓋をパカッと開ける時のそれである。中には驚くほどバリエーション豊かで不思議な文字や記号がビッシリ詰まっている。まさに文字と記号のびっくり箱のような一冊であった。