読書の歴史を問う 書物と読者の近代 改訂増補版
著 者:和田敦彦
出版社:文学通信
ISBN13:978-4-909658-34-0

読書のプロセスを紐解く

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

江良水晶 / 図書館総合研究所
週刊読書人2021年3月19日号


「読書」と言ったときに、大多数の人々が想像するのは、本を手に持ち、そこに書かれている文章を目で追っていく行為だろう。もちろん、それを行う場所は人それぞれだろうし、最近ではタブレット端末やスマートフォンで電子書籍を読む行為を読書であると解する人も多いだろう。

 本書は、読書の歴史についての学び方、調べ方を考えることをねらいとしたものである。しかし、読書の歴史と一言で言っても、先に述べた「読む行為」のみに焦点を当てたものではない。

 著者の和田氏は、読書のプロセスを書物が移動して読者にたどりつくまでのプロセスと書物を読者が理解するプロセスの二つに分けている。さらに和田氏は、この二つのプロセスは読書の歴史を問う際に不可分な要素であると主張する。しかし、書物が読者へたどりつく経路の研究は、出版史や図書館史といった形で読書とは全く別のものとみなされることがほとんどである。

 一般的に「読書」と言われるものは、読者のもとに書物が移動した後の理解するプロセスにあたる。出版されてからすぐ書店や図書館で手にとったのならまだしも、何十年も前に出版された本がどういう経路をたどって自分のもとへやってきたのかといった、本が自分のもとへやってくるまでのプロセスに焦点をあてることは、意識的に行わない限り滅多にないのである。

 しかし、活字離れなどが叫ばれる現代において、実はたどりつくプロセスというものはより重要になってきているのではないか。本を読みなさいと言う人は数多くいるが、実際に必要なことはいかに読む本を選ぶのか、いかに求めていた本に出合うのかというたどりつくプロセスを提示し、読者が自分で意図を持って(あるいはわざと持たずに)書物を選べるようになることだと思う。

 さらに、最近では紙の本だけでなく電子書籍も増えた。本を手に入れる経路の増加に伴い、書物が読者にたどりつくまでのプロセスも多様化している。書物そのものについても、文字で書かれたものだけでなく、絵本、漫画など様々なジャンルがある。それだけたどりつくプロセスが多種多様であり、時代や場所により変化していると言える。

 読書をたどりつくプロセスと理解するプロセスに分けたとき、図書館という存在はたどりつくプロセスの中の媒介としての存在が大きい。図書館内での企画展示でテーマに沿った本や時事に合った本を紹介すること、一定の分類ルールに基づいて図書を整理することやレファレンスサービスは、利用者が自分の読みたいと思った本や必要としている本を手に取るまでのプロセスを大いにサポートしている。

 読書とは、ひとつの書物とひとりの読者で完結するものではない。そして、時代や場所によって固定されるものでもない。それ故に、たどりつくプロセスは無尽蔵に広がる。私たちがどう選び、書物へたどりつくのかが重要である。