風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電
著 者:ウィリアム・カムクワンバ,ブライアン・ミーラー 著 田口俊樹
出版社:文藝春秋
ISBN13:978-4-16-373080-6

風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

平本真理 / 鎌倉市深沢図書館
週刊読書人2021年2月19日号(3378号)


 みなさんはマラウイという国をご存知だろうか?外務省HPによるとアフリカ南東部に位置し,人口は1814万人,面積は日本の3分の1ほどの細長い国だ。アフリカの最貧国の一つで,GDPは日本の約120分の1である。 本書の主人公はマラウイに生まれ育ったウィリアム・カムクワンバ少年。両親と姉妹の8人家族で,マラウイの多くの家と同様,たばこやトウモロコシを栽培する農家である。14歳になると中等学校に進学するも,2001年に全土を襲った大干ばつが原因で学費が払えず退学になってしまう。 しかしNPOが運営する図書室で出合った本が彼の運命を変える。『物理学入門』と『エネルギーの利用』。これらの本で独学し,親友の手助けもあって,ついには自宅の庭で風力発電を成功させるのだ。人口のたった2%しか電気を使うことのできないマラウイでこのことが評判を呼び,現地のラジオや新聞で報道され,彼は中等学校に再び通えるようになる。それどころか,南アフリカの高校へ進学,2010年にはアメリカの名門・ダートマス大学への進学も果たしてしまうのだ。 と,まあ本書の魅力は,過酷な境遇でもめげずに成功をつかんだ一人の少年のサクセスストーリーにあるが,私としては見どころがもう一つあると感じた。それは,マラウイの文化や政治事情,そこに生きる人々の姿が実に鮮やかに描かれていることだった。例えば,“魔術”や“迷信”が生活のそばに存在しており,バッタをパリパリに揚げて食べ,マラリアには毎年かかる。汚職政治と貧富の激しさ,猫には名前を付けなくても犬には付ける,そして人と人の結びつきの強さ等など。 アフリカの大地のエネルギーと,学ぶことの本当の意味を描いたノンフィクションである。 なお本書は文庫化(同 2014),2018年には映画化もされている。