日本のお弁当文化 知恵と美意識の小宇宙
著 者:権代美重子 著
出版社:法政大学出版局
ISBN13:978-4-588-30052-3

日本のお弁当文化 知恵と美意識の小宇宙

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

笹川美季 / 府中市立図書館(東京都),日本図書館協会認定司書 第2012 号
週刊読書人2021年3月12日号(3381号)


 どの国のどの時代でも食事は生活の基本であり,食文化はその国の人々の暮らしや時代背景を映す。この本は日本独自の食文化のひとつである「弁当」をテーマとした研究書である。私たちの日常生活の中に深く浸透している弁当文化の形成過程が,多様な切り口で論じられている。

 海外で評価されている日本のマンガやアニメには,実に多くのお弁当シーンが描かれる。映像で発信された,いかにも美味しそうな庶民の弁当に,世界の人々は驚かされた。持ち歩くだけの食事に,見る楽しみ,作る楽しみが派生した「BENTO」は,世界でも珍しい携行食であるらしい。

 もともと弁当は,人々が仕事場へ持っていく日常的な携行食だった。ご飯を美味しく保つ素材で作られた弁当箱に,きつい肉体労働を支えられる腹持ちの良い食べ物が詰められた。また,長い距離を持ち歩く弁当箱は,持ちやすさ使いやすさも工夫された。漁師が携行する船弁当箱は気密性を持ち,緊急時には浮いて救命道具や水をかきだす桶の役も果たしたという。本書では,元来の実用が優先された携行食である弁当のほか,花見弁当など楽しみのための弁当,戦国時代から現代の戦争までの戦う兵士のための弁当なども,時代背景とともに詳しく解説されている。

 近年,高齢者のための宅配弁当や災害時の弁当支給など,「お弁当」は個人の域を越えて社会的役割を担うものになったと著者は推考する。昨年,COVID-19流行の影響を強く受け,休業を余儀なくされた飲食店にとって,テイクアウト弁当は経営を続ける活路ともなった。弁当文化は時代に合わせ,常に新しい顔を持ち続けていく。

 日本の家庭では,老若男女を問わず当たり前のように日常生活の中で弁当文化が引き継がれている。身近にある「庶民の食文化」の長い歴史に驚かされる,大変興味深い1冊だ。