日本語の個性 改版
著 者:外山滋比古著
出版社:中央公論新社(中公新書)
ISBN13:978-4-12-180433-4

日本語の個性 改版

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

大久保美玲 / 横浜女子短期大学図書館
週刊読書人2021年3月19日号(3382号)


 コロナ禍で「新しい生活様式」への移行が余儀なくされ,柔軟な発想が必要とされている今,頭のストレッチ体操となるような本を紹介したい。

 1976年に発行された時と同じ内容のまま文字を大きくして読みやすく改版された本書は,40年以上たっても色あせず,自分では思いつかなかった思考法を清らかな水が流れるごとく頭に届けてくれる。新しい考え方に出会い,理解し,共感できた感動は,脳が柔らかくなったと表現したくなるような快感につながる。

 本書は,英文学専門の著者から見た日本語の魅力や特性について記されている。日本語は室内語として洗練され発達してきた言葉で,情報や意思の伝達手段の一つというよりも,人間関係の確立や維持の手段として発展したという。そのため,曖昧な表現によって印象をやわらげ,末尾の動詞に真意や意図を託したと著者は述べる。しかし,明治以来の翻訳文化の影響によってバランスが崩れ,日本語の魅力は失われたと分析しながらも,その回復のカギが話し言葉にあると提示する。例えば関西弁が重宝されるのは,語尾に愛嬌があるからだという。つまり,人間関係確立のための手段として発達し,末尾の動詞に伝えたいことを託した日本語の魅力が関西弁には残っているのだ。

 雑談が言葉によるスキンシップという指摘も面白い。少し柔らかくなった頭で考えてみると,通りすがりの挨拶さえ楽しい関西弁は確かに「スキンシップ」の最たる例であろう。仲間内で楽しく雑談するために言葉の省略・アレンジ等を加え,次々と新語を生み出す「若者言葉」も日本語文化のひとつといえる。室内語としての日本語は実は非常に懐が深く,ある意味室内と同様限られた者同士の交流場所にもなるSNSにも向いているのかもしれない。本書に刺激されて起こるであろう思考の転換を,是非味わってほしい。