日本のオンライン教育最前線 アフターコロナの学びを考える
著 者:石戸奈々子(編著)
出版社:明石書店
ISBN13:978-4-7503-5091-2

オンライン(デジタル)教育最前線レポート

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

野村隆之 / TRCデータ部
週刊読書人2021年4月9日号


 本書のサブタイトルは「アフターコロナの学びを考える」だが、帯にある「子どもたちの学びを止めない!」というのが著者の考えの根本にある。

 「プロローグ 動き始めた日本のデジタル教育」では、アナログ時代の日本の教育が成功し過ぎたため、教育の情報(デジタル)化への対応が遅くなってしまった。その結果、現在はもとより、十年前でもデジタル教育の後進国だったと著者は述べている。ただ、この十年で、一部の自治体は教育情報化に力を入れたのだが、その結果、自治体間格差も生じている。そういう状況下で、ようやくここ一年、デジタル教科書の導入、プログラミング教育の必修化、GIGAスクール構想による一人一台パソコン整備等、構想が実装化されようとした時の、新型コロナウイルス感染症拡大による長期の臨時休校。著者は「子どもたちの学びへの思いを止めないために、日本のデジタル教育への対応は待ったなしの状況」と警鐘を鳴らしている。このプロローグは十ページあって、このテーマに関心をもつ教育関係者には既知の事例なのかもしれないが、一般の読者にとっては、何かのセミナーかフォーラムに参加しているような感じを受けて、読み進むのではないだろうか。実際、その後に続く、海外の学校の事例はインタビュー記事、日本の学校のオンライン教育の事例やAI、教育データの活用等は、オンラインランチシンポ等の記録が元になっていて、それらを加筆修正したものが多い。

 海外の事例は、アジア、ヨーロッパ、アメリカの計五か国を紹介していて、どれも興味深いが、その中で特に印象に残っているのは、海外と日本の公立小学校を体験したお子さんと母親に、今後、どちらの学校に通いたいかをきいたところ、たいへん残念なことに、日本が選ばれていない、という点だ。日本のオンライン教育もがんばっているものの、紹介されている海外の「大変な時に(これだけオンラインの対応をしてくれて)ありがとう」とか、「日頃から、学校、先生と家庭がオンラインでコミュニケーション、信頼関係がとれている」という、かなり高いレベルには、まだ届いていない、ということになるのだろうか。なお、「海外」とはアメリカなのだが、他の四か国の事例からも、日本が選ばれそうにないという印象を受ける。

 日本の事例では、塾やメディア(NHK等)、保護者等、なかなか知ることができない角度から焦点をあてているが、私立の学校(特に中学、高校)や幼稚園、保育園については、ほとんど触れていない。また、大学や幼稚園、保育園等については、小中高校とは、観点が異なる点もおそらく多々あると思われ、それだけで、それぞれ一冊の図書になるのだろう。それらの続編がもし出版されるのなら、ぜひ読んでみたい。

 本書は、現時点では、オンライン(デジタル)教育最前線レポートでもあり、後世からは「日本の教育史 二〇二〇」となるのだが、数年後には、日本がデジタル後進国を脱していることを願っている。