今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は
著 者:福徳秀介
出版社:小学館
ISBN13:978-4-09-386575-3

不器用な「僕」の恋模様

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

松田靖代 / TRC東日本支社
週刊読書人2021年4月9日号


 憧れていた華の大学生活とはかけ離れ、いわゆる〝ザ・大学生〟グループを妬みながら唯一の友人と孤独にほそぼそと大学生活を送っていた「僕」。ある日、大教室で受けた授業終了直後、自分と似た雰囲気を醸し出す女性と出会い、徐々に彼女に惹かれていく。

 まっすぐで純粋だけど不器用な「僕」の恋模様をお笑い芸人、福徳秀介さんが繊細に描いた恋愛小説。

 関西弁で書かれているため、読み始めたときはかなりの違和感があったが、お笑い芸人さんの作品なだけに小説の進め方はとてもリズミカルにテンポがよく、言葉選びや心情描写の描き方がとても丁寧で作品にのめり込みやすく、読み心地の良い一冊であると感じた。

 学生の純粋な恋愛を描いた恋愛小説でありながら、人間の暗の部分もしっかりと描かれていてまさに笑いあり涙ありの作品である。

 集団生活を送る中で誰もが一度は感じたことがあるのではないかという〝孤独〟が上手に表現されていて、リアルで人との距離を取るのが難しいこの世情では特に人の心に響く作品になっている。

 特に作品の中の登場人物は皆、独特な雰囲気やオーラ、感性を持っており、読者として客観的にみていると「まあ、そりゃ浮くだろうなあ」と感じる場面は多々あったのだが、読み進めていくうちに彼ら独自の言語や表現の仕方を持っており、すんなりと受け入れられるようになった。自分に置き換えてみても、友人と話す際には内輪な言語やサインがあり、そこには他の誰かには侵入できない領域があることに改めて気づいた。自分たちだけの言語を用いた空間はとても居心地がよく、孤独であるなんて感じる隙もない。きっと彼らも同じなのだろうと思った。

 また、私はこの作品の言葉のチョイスがとても好きだ。というのも、日常生活でそれらを誰かに伝える場面はなかなか見当たらないほどのキザでクサイ台詞がたくさんでてくるのだ。たとえ誰かに伝えることはないとしても今後も忘れずに、心に刻んでおきたいと思うほどの温かみのある優しい言葉や少し冷たく感じるが真意が深い言葉の数々があり、メモを残しておきたいと思った。こんな時だからこそ言葉選びは大事にしたいと改めて思わされた。