オノマトペ・マーケティング
著 者:坂本真樹
出版社:オーム社
ISBN13:978-4-274-22646-5

「感覚」とはどのようなものか

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

菅原信乃 / TRCデータ部
週刊読書人2021年4月9日号


「ふわっと」「すべすべ」「ぎとぎと」オノマトペと呼ばれるこれらの言葉は、感覚を表すため頻繁に使われる。しかし私たちは果たして感覚を「正確に」共有できているのだろうか?

 本書は「オノマトペ印象評価システム」を開発し、オノマトペを主力商品とする会社も立ち上げた著者が、オノマトペをマーケティングに活用する方法や事例を語ったものだ。

 マーケティングにおいてオノマトペはユーザの生の声に近い反面、分析・把握が難しい。代わりに項目ごとに数値で回答してもらえば客観的で分析しやすくなるが、ユーザにとって回答が困難になってしまう。著者の言葉を借りれば、普段ハンドクリームを評する表現は「粘り気が3、なめらかさが1…」ではなく「ぬるっとして嫌」だからである。

 著者の開発したシステムは、オノマトペを構成する音韻がそれぞれどのような印象に結び付くかを特定するというものだ。音韻とは「しゅわしゅわ」の/s/や/u/などで、各音韻を分析することによってオノマトペ全体の印象評価を算出し、直感的な表現であるオノマトペを数値として客観的に扱うことが可能になる。

 本書の後半ではこのシステムを応用した様々な例が登場する。特に印象的だったのが、味成分とテクスチャーを変えた飲料を試飲し、オノマトペなどで評価してもらう実験である。その結果、/b/で始まるオノマトペには辛味やキレ、/h/で始まるオノマトペには甘味やなめらかさなど、オノマトペの音韻に味やテクスチャーが反映されていることが分かった。そして実験で得たオノマトペをシステムで分析することで、「口触り・喉ごし」「おいしさ」のような総合的な評価に、甘味や苦味などの各味覚がどれだけ影響するかも算出できたという。

 この例が印象深かった最大の理由は、/b/で始まる「びりびり」が辛味に、/h/で始まる「ふんわり」が甘味に繫がるなど、実験結果が実体験と符合したからだ。結果が私というユーザの感覚と非常に近かったことから、これがマーケティングの精度や簡便さを向上させる存在だという著者の主張に強く共感できたのである。また、なにげなく使う一言に情報が凝縮されているという発見は、身近に広がる奥深い世界が「オノマトペ印象評価システム」というIT技術によって垣間見えたような不思議な高揚感も覚えさせた。

 専門知識を持たない私にとって、本書で扱う内容は難解な印象を抱きかねない相手だ。しかし著者の軽妙な文章とオノマトペという題材の親しみやすさで、すらすらと読むことができた。この「すらすら」もオノマトペではないか。学びのきっかけは案外身近なところにあるのかもしれない。