テレビリサーチャーという仕事
著 者:高橋直子
出版社:青弓社
ISBN13:978-4-7872-3475-9

情報過多社会を生き抜く英知を養うためのガイド

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

松田彰 / 行橋市図書館
週刊読書人2021年4月23日号


 スマホをはじめとするインターネット端末の普及で情報検索が容易になり、本や図書館の需要が下がっているという見方もあるようだが実際のところはどうだろうか。

 SNS等を使い、だれでも気軽に情報発信を行えるようになった結果、意図的なフェイクニュースから善意によるデマの拡散まで事実とは異なる情報の流布を招き、正しい情報を見極める力がこれまで以上に求められるようになった。最近、小学校低学年から始まる情報リテラシー教育の事例に触れ、こうした技術を身に付ける機会のなかった大人たちこそ、メディアリテラシーの基礎を学ぶ必要があると感じていたところ本書に出合った。

 タイトルに掲げられた「テレビリサーチャー」とは、「番組制作で必要な『調べもの』をする『リサーチャー』という職業」を他のリサーチャー(調査員、研究者)と区別するための造語。この仕事を、歴史的・社会的背景や同業者との対話等を交え包括的に捉えた入門書的職業ガイドが本書である。80年代に始まった『世界ふしぎ発見!』に専属リサーチャーがついたことで、職業として認知されるようになり、現在ではクイズ番組や情報番組のみならずバラエティやドラマにも携わっているという。これらテレビ番組制作の内幕ものとして、また情報検索からレジュメ作成、さらにはプレゼン技術を磨くビジネス実用書としても読めるが、一番の読みどころは、「<情報>とは何か」を根幹から問い直した第5章「テレビリサーチャーがなぜ必要なのか」だ。この章では、情報学概論に始まり、ネット上など一部で「マスゴミ」とも揶揄される「テレビ批判とメディア不信」にも検証が及ぶ。

 著者の高橋直子は、テレビリサーチャーで、宗教学を専攻とする大学付属研究所の研究員でもある。リサーチャーになった理由が「図書館で調べものをしてお金がもらえる仕事だったから」という筋金入り。前著『オカルト番組はなぜ消えたのか 超能力からスピリチュアルまでのメディア分析』(2019年、青弓社)は、「オカルト」という興味本位にとられやすい題材を丹念に調べ、その変遷をまとめた研究書。これら高橋の著書や、本書で紹介されているテレビリサーチャーによる本を読んで感じた共通項がある。まず調査による裏付けがしっかりしているのが明確で安心して読めるということ。2点めは、読み手へのサービスが行き届いていること。これらは豊富な注釈や補足、コラムを織り交ぜた構成とその内容にも表れている。そして、その飽くなき探究心と知識欲だ。この点は、図書館員としても非常に刺激を受けた。

 冒頭で示した、本や図書館の存在意義に関する問いに、本書がほぼ答えに近いヒントを与えてくれている。コロナ禍をはじめとする苦境に立ち向かう出版・図書館関係者にとって励みとなるエピソードも随所に見られる。放送法と表現の自由への言及からは、メディアを支える一員としての気概も伝わってきた。