ビジュアル顔の大研究
著 者:原島博/馬場悠男/輿水大和(監修)
出版社:丸善出版
ISBN13:978-4-621-30557-7

顔とは何か?

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

落合智美 / TRC仕入部
週刊読書人2021年4月23日号


 本書は「顔」というものが人間にとってどのような意味を持っているのか、顔そのものの研究をすることを目的に発足した「日本顔学会」による、「顔学」の入門書である。2015年に刊行された『顔の百科事典』を中学生からでも読めるように写真やイラスト・図版などを中心に再編集したもので、人類学・心理学・社会学・美容学など、9つの学問分野から「顔」というものが持つ意味や役割を紐解いていく。

 1章での「顔の動物学」では、動物の顔がどのようにできたのかを探る。動物は口がなければ生きていくことができない。まず、餌を効率的に捉えるために身体の全面に口が形成されたという。そして餌を探知するため、または危険を察知するために他の感覚器官(目・耳・鼻)が周囲にできてくる。この発達により顔と認識される部分が生まれたのである。

 個人的に面白かったのは5章の「顔の社会学」の部分。衣服を来て生活するようになった人間にとって、顔は個人を見分け、判断するための手がかりとなる。見かけだけで正しい判断ができるかどうかはさておき、一種の「証明書としての役割」を持つようになったのである。

 例として日本の美意識の変遷が紹介されているが、白粉やお歯黒・眉化粧などの文化があった平安時代から、明治大正時代になると欧米化が進み、頬紅や口紅などが使われるようになるなど、「他人に見せる顔」としての意識が変わってきた歴史があることがわかる。元々は生きるために形成された顔が、社会生活の発生により個体認識の対象としても重要なものになった結果生まれた、「顔の文化」である。

 コロナウイルス感染症でマスクが日常となった現在、これまでの当たり前が大きく変化させられてしまったが、コロナがもたらした「顔学」を取り巻く影響も、決して小さくはないはずだ。マスクによって表情を読み取りづらくなり、今まで当たり前だったコミュニケーションが不便になったという人もいれば、顔を一部隠せることで安心感が得られる、なんとなく守られている感覚がある、という人もいるだろう。またマスク自体もデザインやカラーバリエーションが増えてきており、ファッションの一部として進化を遂げている部分もある。最近は「マスクスタイルに映えるメイク」のような広告もよく見かけるようになった。

 身近な存在でありながら、意外と知らないことばかりの「顔」。メインの章立ての他にも、「ゾウの鼻はなぜ長いのか?」「日本人はなぜウインクが苦手なのか?」「ひげは何のため?」といったコラムも雑学として興味深いものばかりだ。気張らない入門書として、興味のあるところからつまみ読みしても楽しい1冊である。