図説化石の文化史 神話、装身具、護符、そして薬まで
著 者:ケン・マクナマラ
出版社:原書房
ISBN13:978-4-562-05885-3

人と化石の長い物語

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

土屋綾 / TRCデータ部
週刊読書人2021年5月7日号


〝化石〟とはなんと心躍る言葉だろうか。私は地層むき出しの崖がある海の近くで育ったので、子どもの頃よく化石掘りをしていた。ごくまれに貝やシダの化石が出てくると、ものすごくワクワクしたのを今でも覚えている。現代の私たちは化石が過去の生物であるということを知っていてロマンを感じるが、昔の人々はその正体を知らずに、それでもずっと化石を収集してきた。この本は、過去の人々が収集したり、場合によっては細工を施したりした〝中古の〟化石を通じて、人がいかに化石とつきあってきたのかを解き明かしていく。

 過去の人々と化石のつきあい方を探るツールとなるのが、神話と民間伝承(伝説)、そして考古学だ。近代科学以前の人々は化石を神話の中に取り込んで理解してきた。中国では龍の神話から化石は龍の骨・歯として扱われたし、デンマークでは北欧神話と結びつき雷石と呼ばれることが多かったという。

 既存の神話に取り込むのではなく、独自の伝説を築き上げた例としてはアンモナイトがあげられている。とぐろを巻いたような形状で、その殻の片端に頭を彫る加工が施されることが多々あったというアンモナイトの化石は、イングランドではヘビが石化したものと考えられ〝ヘビ石〟と呼ばれた。エチオピアでは〝ハンモニス・コルヌ〟(神アモンの角)、ネパールでは〝サリグラム〟(ヴィシュヌ神の化身)と呼ばれ、その特徴的な形状からアンモナイトは世界各地で様々な伝説を生みだした。

 考古学からわかるのは、現生人類よりさらに古いヒト属(ホモ)たちも化石を収集していたという事実だ。太古の昔からホモたちは化石で石器を作り、ファッションとして身に着け、創作意欲を刺激されて化石の姿を石や骨に刻んできた。救済を求めて死者とともに埋葬し、魔力を宿すものとして護符代わりにし、薬としても使用してきたことを、〝中古の〟化石は教えてくれる。

 この本がユニークなのは、化石に対して科学的にではなく、人間との関係=文化史という面からアプローチしているところだ。古生物学者である著者は、そもそもなぜ人が化石を収集するようになったのか疑問に感じ、その動機を探っていく。〝中古の〟化石の多くにははっきりとした実用的な用途や目的がうかがえないことから、ただ単に化石の見た目が好みだから、美しい模様があり目立つかたちの石に惹きつけられたから集めたのだろうとしている。記録のない時代のことなので〝なぜ〟の部分は著者の想像にすぎないが、人がずっと化石に惹かれてきたという考察は非常に興味深い。祖先を魅了し、現代の私たちのこころをときめかせる化石と、未来の人々はどうやってつきあっていくのか。今後もずっと人と化石の物語は続いていくだろう。