バイエルの刊行台帳
著 者:小野亮祐/安田寛
出版社:音楽之友社
ISBN13:978-4-276-21259-6

市民社会と音楽産業

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

辻和人 / TRC仕入部
週刊読書人2021年5月7日号


 ピアノを習ったことのある人なら誰でも「バイエルの教則本」のことを知っていることだろう。年少者向けのピアノ曲の難易度に対して、「バイエル〇番程度」と解説されることはよくある。練習曲の定番中の定番というわけだが、では、これらの曲を書いたバイエルとは誰なのか? この問いに答えられる人は余りいないのではないだろうか。

 フェルディナント・バイエルは1806年に生まれ1863年に世を去ったドイツの作曲家で、大衆受けする軽い曲の創作を得意としていた。当時、豊かになりつつあった市民はピアノを購入し、家庭での演奏を楽しんでいた。彼の有名な教則本には、反復練習を目的とした単調な曲の他に、民謡やオペラから取った親しみやすいメロディーを基にした付録の「番外曲」があり、これが爆発的な人気を呼んだという。今で言えば、アニメソングが収録されている感じだろうか。アメ(=ポピュラー曲)とムチ(=反復練習)を使い分けて学習者の歓心を買っていたわけだ。市民社会の成熟ぶりと楽譜出版の関係が、バイエルの背後から見えてくる。音楽史は決して「大作曲家」だけのものではないのだ。