ははのれんあい
著 者:窪美澄
出版社:KADOKAWA
ISBN13:978-4-04-105491-8

きっと「家族」は繫がっていく

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

新保有香 / 江戸川区立中央図書館(指定管理者)
週刊読書人2021年5月7日号


 これは、ある家族の一代記である。普通だったはずの家族が必死に日々をこなして生きている姿が描かれている。夫婦となり子どもが生まれ、一人一人が家族を大切にして生きていた。そのはずが、いつの間にか歪みが生まれ、歯車が狂っていく。

 第一部は家族の母である由紀子が〝はは〟になる過程が描かれ、第二部は長男である智晴が〝はは〟となる過程が描かれる。それぞれが懸命に生きている。読者であれば皆そのことを感じるだろう。懸命に生きた結果が、この形となった。家族といえども一人一人の考えがあり、人により正しいことは違っていて、その集合体だ。たとえどんなに形を変えて行っても、そのことに変わりはない。どのように形を変えて行くのかは本書を読んで欲しいが、途中で起こる、時に重い出来事も、瑞々しい筆致によって気持ちを落ち着けて読むことが出来る。

 第一部、由紀子が〝はは〟になっていく過程における出来事は、この社会の問題、生きていくことの困難など多くのものを考えさせられる。由紀子の母の言葉「悪いことをするのはいい人よ。いい人がいちばん悪いことをするの」という言葉は重く響く。第二部、智晴が〝はは〟になって行く苦悩は時に辛くなり、だからこそ応援したくなる。自分の境遇を憎み、自分の家族を「普通ではない」という言葉に、では「普通」とは何なのだろうかと問いかけられる思いがした。きっと目に見えているものだけが全てではないのだ。

 また、家族を取り巻く登場人物たちも魅力があり、家族の成長を支える。印象的なのは、智晴と幼馴染の彩菜との会話だ。父を許せないが嫌いになれない智晴に、幼馴染の彩菜が「智晴のお父さんはいい人だ」という。それは、保育園の頃のあることが理由なのだが、智晴にとって忘れていた記憶であり、父の優しさを思い出すことでもあった。こうして誰かを通じて人生が繫がっていることがある。自分では気づけないが、いざという時大切なことを気付かせてくれるのは周囲の人間だったのである。

 人は生きていく上で、何度も大きな選択をする。生きていくことは取捨選択の繰り返しでもある。一つの選択が正しかったのかどうか分かるのは今ではなく、明日かもしれないし、十年後かもしれない。ただし、どんな選択をしようとも、その時にどのような形であったとしても、繫がっているのが「家族」だ。どんな形の「家族」であっても、「家族」は肯定されるべきだと本書は登場人物を通じて気付かせてくれる。

 時に卑屈になって、父親を許せなかった智晴は、徐々に色々なことを受入れ、自分の世界観を広げていく。この清々しい読了感は、智晴の真っ直ぐな生き方に魅せられるからだろう。

 身の回りのことを全て肯定することは難しいが、それでもこうして世界を受入れ生きていく姿は、これから周囲を幸せにするのだろうと感じさせる。そうしてきっと「家族」は繫がっていくのである。