大図鑑コードの秘密 世界に隠されたメッセージを読み解く
著 者:ポール・ルンダ(編)
出版社:明石書店
ISBN13:978-4-7503-5133-9

意思疎通手段の創造と効率化の歴史

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

大川正人 / TRC電算室
週刊読書人2021年5月7日号


 本書は人類の知性の進化にともなって発達してきた他者との意思疎通の手段、また自己表現の手段を〈コード〉の用語を切り口にまとめる、ヴィジュアル面も充実した大判オールカラーの一冊です。ひとつの主題を見開きにおさめて、どの頁を捲っても見やすく面白いつくりになっています。

 〈コード〉という言葉からは、最近では小説・映画で好評を博したダン・ブラウン『ダヴィンチ・コード』の影響から、暗号文のような先入観をいだかれるかもしれません。しかし巻頭から読み進めていただければ、もっとずっと広闊な概念をテーマとしていることがすぐにわかります。地形から読み解かれる自然災害の予兆、雲から読み解かれる天気の推測。狩猟のために読み解く動物の生活痕。後期旧石器時代の洞窟壁画。ロゼッタストーンに遺されたヒエログリフと、近代の研究者がその失われた言語体系を如何に解読してきたか。

 扱うジャンルは多岐にわたり、読者それぞれに興味をひく主題が、またそこから派生して追及したくなる事物があるでしょう。わたし個人の興味でいえば、知識としては持っていたものの詳しく知らなかった事柄を少し突っ込んで調べてしまいました。例えば前述のロゼッタストーンの解読について、物理学者トマス・ヤングがどれだけ関わり、そして研究から離れるにいたったか。また第二次大戦中にドイツ海軍の有名なエニグマ暗号に対抗するため「コンピュータの父」アラン・チューリングが開発した自動解読器がどういう設計だったか。

 読んで次に向かう書棚が自然科学なのか、形式科学なのか、人文科学なのか、それは読者しだいなのですが、なるべくなら若いかたの目にとまってほしい。もともと図鑑というのは知的好奇心をそそるものですが、中学高校の図書室でこの本に出合えば、将来の進路に影響を与えうる内容だと素直に思います。

 ただ最新の情報を扱う「デジタルエイジ」章は、あくまで原書刊行当時の技術であるために若干の古さを感じてしまいました。いま改訂版が出るならば、インターネット上の暗号化通信技術はRSA暗号より楕円曲線暗号が主題に選ばれるでしょうし、人工知能の深層学習・強化学習のアルゴリズムについて多く頁が割かれることでしょう。無論、読者の足掛かりとしては十全の内容です。

 さてなぜ本書を手に取ったかといえば、わたし自身が関わるMARC作成という生業も、つまりは資料を〈コード〉に変える使命をはたすものだからです。その作成にあたっては、拠り所となる各種の規則があります。日本目録規則、日本十進分類法、基本件名標目表、等々。そしてもちろん日本目録規則は国際目録原則覚書に則って改訂されているなど、規則は階層性を持っています。そしていずれの規則ももちろん本書でいう〈コード〉です。自分たちが作る〈コード〉が、図書館とその利用者のコミュニケーションにどう寄与できるのか、あらためて考えさせられたことでした。