空飛ぶヘビとアメンボロボット
著 者:デイヴィッド・フー
出版社:化学同人
ISBN13:978-4-7598-2061-4

さあアニマルモーションの世界へ、探検に出かけよう

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

大河内元 / TRCライブラリー・アカデミー
週刊読書人2021年5月21日号


 アニマルモーション研究ということばを聞いたことはないだろうか。テレビの動物番組かなにかで、超スローモーションカメラで撮影されたエリマキトカゲの走る様子を見たことは。

 あれである。「へぇ」と感心はするものの、それが何の役に立つの?というのが、ふつうの人の感覚だろう。ふつうの人どころか、アメリカの上院議員にとっても「税金の無駄遣い」と切ってすてられるような研究分野らしい。この本の著者は、そんな人々の生活に直接役立ちそうもない、一見、荒唐無稽なテーマの研究に取り組んできた。著者自身、最初は「研究というよりお遊びだ」と思ったという。もともとは工学博士である著者は、動物の動きの不思議にフォーカスし、それを一般的な物理法則で読み解くと、予期せぬ用途に応用できることに気がついた。その過程が、なんとも楽しい。例えば、アメンボが水に浮くのはともかくとして、高速ですいすい泳げる(否、泳いでいるわけじゃない、水面を歩いているのだ!)のはなぜか、とか、ヘビを斜めにした板に載せたら、何度の傾斜で滑り落ちるだろうか。頭が上か、しっぽが上か。なんてことを、大まじめに実験し、そこに物理学のルールを見出していく。不思議でもなんでもなく、そこには、きちんとした理由があるのだ。この本には、そんな「?」からはじまって、ルールを発見するまでが、身のまわりのいろいろな動物の動きにズームインしたり、あるいは俯瞰したり、さまざまな視点からいきいきと描かれている。

 こうした地道な研究のすそ野は大きくひろがっている。一例をあげれば、ヘビの動きの研究は、ロボット工学者や材料科学者にインスピレーションを与え、長くしなやかなロボットが生まれた。いまや、ヘビ型ロボットは、医療や介護の世界で、あるいは工業分野で、さらには潜入捜査の場面で、さまざまに応用されている。アニマルモーション研究は、学問分野の融合という視点から、今まさにターニングポイントを迎えているのだ。

 著者は、過去に二度、イグノーベル賞を受賞している。人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究や業績に対して贈られるイグノーベル賞の受賞は、「全米一の無駄遣い研究者」のレッテルを貼られた著者の面目躍如だろう。科学の本当の強みは、わたしたちをたくさんの未知なる目的地に導いてくれる点にある。この本を読んだあなたのまわりに、好奇心旺盛な子どもがいたら、したり顔でうんちくを傾けることができるのは請け合いである。子どものようなピュアで鋭い問いかけと、ユーモラスで突拍子もない実験の数々、そんな「おもちゃ箱をひっくり返したような」楽しい一冊である。