日本国憲法を生んだ密室の九日間
著 者:鈴木昭典
出版社:KADOKAWA(角川ソフィア文庫)
ISBN13:9784044058067

日本国憲法を生んだ密室の九日間

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

仲 明彦 / 京都府立洛北高等学校
週刊読書人2021年4月2日号(3384号)


 2019年刊の中島京子著『夢見る帝国図書館』(文藝春秋)を手にした図書館員は多いだろう。随所に挟まれる帝国図書館にまつわる挿話,夢見る帝国図書館の24「ピアニストの娘,帝国図書館にあらわる」では,憲法草案作成のための関連資料を求めて来館するベアテ・シロタが描かれている。彼女が帝国図書館にあらわれたとされる1946年2月4日から2月12日の九日間,GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)民政局で行われた日本国憲法の草案作成過程を描いた同名のドキュメンタリー番組(1993年放映)をまとめたのが本書(単行本1995年刊)である。著者の鈴木氏は,昭和史をはじめ多様なテーマでドキュメンタリー番組を作成されたプロデューサーである(2019年ご逝去)。

 日本政府の憲法試案が極めて保守的であったため,GHQがモデル草案を提示したとされる。本書では著者の取材当時,草案執筆者25名のうち,存命であった6名へのインタビューや豊富な資料から,どのように草案の条文が生み出されたか,その変遷と背景にある国際的な歩みや情勢が詳述されており興味深い。憲法制定史を扱った図書は数多いが,「密室の九日間」に焦点を絞り,草案執筆者の行動,思い,息遣いが,映像を見るように浮かび上がってくるのが本書の特長である。

 「こういう仕事には,まず資料が必要だとわかっていました。そこで,あちこち図書館を駆けめぐったのです」「机の上に積んで置いたら,みんな<貸してくれ><貸してくれ>と言ってきて」(p.78)と,草案作成の命が下された2月4日のベアテ・シロタの行動について紹介している。借り受けた資料も参考にして彼女が起草した人権に関わる条項案は,幾多の修正を経ながらも日本国憲法第24条「両性の平等」等の条文として生きている。日本国憲法の草案作成と図書館とのかかわりにも思いを巡らせつつ,ぜひ本書を繙いてほしい。