発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ
著 者:小倉ヒラク
出版社:木楽舎
ISBN13:9784863241121

発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

坪田英子 / 大和市立図書館
週刊読書人2021年4月2日号(3384号)


 まず,表紙に惹かれた。ぜひ,カバーがかけられていない本書を手に取ってほしいのだが,表紙の手触りといいタイトルの字体といい,まるで本自体が発酵しているかのようなのだ。

 思わず手に取り,タイトルを見ると「発酵文化人類学」という聞いたことのない単語。「おお?!何じゃこりゃ?!」と好奇心に駆られてまえがきを読むと,どうやらこの語は著者の造語で,意味は「発酵を通して,人類の暮らしにまつわる文化や技術の謎を紐解く学問」(p.20)であるらしい。

 「発酵を通して」というところが斬新だ。発酵と聞いて思いつくのは味噌や醤油,ワインなどだが,これらが作られる過程=発酵を書くことで,人の文化の何が描き出されるのか。

 詳細は本書を読んでほしいが,ポイントになるのは,発酵とは微生物と人という異なる存在同士の関わり合いだということだ。

 微生物は人とは異なる存在である。しかも人はその姿を見ることさえできない。目に見えないものは,多くの場合よくわからない。よくわからないものは意識から外しがちだ。けれど,そのよくわからないものと私たちは「対話」をすることで「発酵」という関係性をつくりだすことができている。発酵技術とはいわば人が世界と関わる方法の一つなのだ。

 著者は発酵に関するさまざまなトピックを通して,発酵技術そのものを解説するとともに,人が,自分たちと異なるものとどのように向き合ってきたかを描き出している。

 一見難しそうなテーマだが,文体は明るく読みやすい。また,話題は,発酵を通したアートや神話,経済,最新技術など多岐にわたる。興味が尽きず,最後まで一気に読んでしまう。知っているようで知らなかった発酵という面白い世界への扉を開き,その世界へ誘ってくれるような本だ。