アニメと戦争
著 者:藤津亮太
出版社:日本評論社
ISBN13:978-4-535-58753-3

アニメ史で知る戦争との距離感

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

桑山大介 / TRC仕入部
週刊読書人2021年6月18日号


 戦争という忌まわしい記憶を後世に伝えるために、様々な資料が存在しているが、最も効果的に広まっているのは「物語」という形だろう。小説という形態では「戦争文学」という1ジャンルにもなっている。

 物語という表現は、漫画やアニメという形でも派生しており、現代では幅広い世代が触れるメディアとして伝わっている。本書はその中でも「アニメ」で描かれる戦争について考察した書籍である。

 太平洋戦争など、実際に起こった戦争を舞台としたアニメはもちろん、それだけではなく架空の世界での戦争、未来の世界での戦争を描いたSF作品などまで、幅広く取り上げているのが特徴だろう。

 各作品には、制作者や、視聴者の戦争に対する距離感を感じ取ることができる。戦争体験者の傷に寄り添うために作られたもの、その記憶から離れようとして作られたものなど、様々なスタンスや、世代ごとに考えの違いがあることがわかる。『宇宙戦艦ヤマト』が、戦艦大和と地続きのものとして制作する側と、その負の記憶から離れようと制作する側の意見の衝突などは興味深い。

 未来の世界を描きながら、第二次大戦を想起させる部分の多い『機動戦士ガンダム』シリーズや、戦争中という設定でもカジュアルな恋愛を主軸にした『超時空要塞マクロス』シリーズなど、作品の変遷がそのまま、人々の戦争に対する意識の変遷のように思えてくる。

 モチーフとなる戦争は過去のものだけではない。『機動警察パトレイバー2』では、湾岸戦争など、当時の最新の戦争を取り入れて作られており、フィクションであるにも関わらず、日本に戦争を現実のものとして眼前に突き付ける画期的作品だったことが理解できる。

 悲劇物語から、エンタメ娯楽、現実の社会を映したものなど、様々な形態をとる戦争アニメだが、近年、新たな観点で再び太平洋戦争を描いた作品にも触れている。それが、『風立ちぬ』と『この世界の片隅に』という新しい名作である。共に、日本が持つ戦争責任、被害者の側面と加害者の側面など、難しい問題を作品内の表現として昇華させていることが、本書を読むとよく理解できる。

 戦争が遠い過去の記憶になったからこそ、人々の戦争に対する距離感もまた、バラバラになっているように感じられる。再び日本が戦争の当事者にならないという保証など、どこにもない。だが、だからこそ、そうならない努力を続けなければならない。負の遺産としての記憶が薄れているならば、新たな記憶として憶えておくためにも、創作物語として戦争を描いた作品は必要だと感じる。