伝承遊び大百科 現代アレンジで遊ぶ
著 者:西村誠/山口孝治/二澤善紀/桝岡義明(編著)
出版社:昭和堂
ISBN13:978-4-8122-2028-3

こどもの学びは「あそび」の中に!
今こそ一緒に楽しみたい伝承遊び

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

佐藤美加 / TRC関西支社 営業部企画課
週刊読書人2021年7月9日号


 仕事柄、新図書館の企画に携わる機会が多くあるが、近年「こども」をターゲットとする案件の増加を肌で感じている。その背景にはどの地域にも少子高齢化という共通の課題があるが、その中でも頻繁に「あそびと学び」というキーワードを見聞きする。要するに、こどもが「あそび」を通して「学び」を得られる機会や環境を公共施設として提案することが求められているのである。

 昨年の夏、某案件のために「あそびと学び」について考えすぎて煮詰まっていたことがあった。そんなときは対象者を観察するに限るので、早速当時3歳の娘を観察してみることにした。すると娘が、どんなあそびでもルールを無視して、自分自身でそれを再定義していることに気づいた。

 たとえば「かるた」の場合。大人が文章を読み、こどもが絵のカードをとる。それがかるたのルールである。しかし娘は違った。「わたしが読むからママがとってね」というのである。当時の娘は文字が読めない。どうやって読むのだろう?と続きを促すと、娘は絵のカードを手にして「〇〇(キャラクターの名前)の誕生日、うれしいな!」とカードを読んだ。そしてわたしに文章が書かれたほうのカードをとるように促すのである。そして両方のカードの「た」が形として一致しているかどうかジャッジするのである。娘のこのような行動は、かるた遊び以外にも顕著だった。その様子から、こどもにとって「あそび」とは、決まった結論や結果を求めることでなく、こども一人ひとりにとっての正解を作りだすことであり、その過程こそが「学び」であると実感した。つまり、ルールや前提にアレンジを加えることは、こどもの創造力を拡張することにつながると考えられる。

『伝承遊び大百科 現代アレンジで遊ぶ』では、昔ながらのお馴染みのあそび「あぶくたった」や「とおりゃんせ」などにアレンジを加えた遊び方を紹介している。どの遊びもルールや順番を守ることの大切さを基本としているが、そもそも伝承遊び自体がいつ、どこで、誰が、どのように始めたのか分からないものが多く、その内容も固定された形はないらしい。また地域や時々によって、自分たちの遊びとして、より楽しいものに変えられていった特性を備えている。そのため、こどもにとっては自由度が高く「友達と一緒に楽しめる」というメリットもある。すなわち「伝承遊び」は「決まった結論や結果」を求めるのではなく、こどもがあそびを通して自分なりの正解を作り出していることを意味しており、その過程で様々なことを学んでいると言えるだろう。

 自分が親になるまでは「こどもとあそぶことは楽しい」というイメージしかなかった。しかし実際には、昼夜問わずこちらの都合を無視してあそびが始まると、独自のルールが設定され「ちがう!そうじゃない!」と怒ったり「ちゃんとやって!」とダメ出しをされたりする。その時点でヘトヘトだが、最後には「じゃあもう1回やろう!」と繰り返しが始まる。しかもこれが、あと1回で終わらないことが分かっているので、どうしても「いつ解放されるんだろう」という気持ちに陥ってしまう。

 こどもと一緒にあそぶことは、もちろん大切な親の役割であることは認識しているが、毎回こどもを満足させることは難しい。しかし、そんなときは「あそび相手をしている」のではなく「こどもの学びをサポートしている」と視点を変えることで、こどもの成長に気づいたり、色々な発見をしたりできるかもしれない。さらに、本書に紹介されている手遊びなど簡単で単純なあそびなら、お風呂や就寝前のわずかな時間を利用することもできる。家事や仕事に追われ、ついついこどもの相手が後回しになっている親は少なくない。そんな親側の罪悪感を少しでも払拭し、こどもと一緒に楽しい時間を過ごせるよう「伝承遊び」を親子のコミュニケーションに取り入れてみてはいかがだろうか。わたしも早速実践してみようと思う。