名馬を読む3
著 者:江面弘也
出版社:三賢社
ISBN13:978-4-908655-19-7

次の伝説を見よ。

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

菅原脩矢 / TRC仕入部
週刊読書人2021年7月9日号


 競馬を始めるのに、今ほど良いタイミングはあるだろうか。巷では競馬を元にしたコンテンツ「ウマ娘」が大流行し、実際の競馬では白毛の女王ソダシや無敗の皐月賞馬エフフォーリアが誕生している。幸か不幸かコロナ禍によりインターネットでの馬券購入が好調で、売り上げはコロナ禍以前より上昇している。今まで競馬に興味が無かった人でも、「実はちょっと馬券買ってみたんだよね」と気軽に言える雰囲気が醸成されてきている。と、思いたい。こんな前置きを書いたのは、今回書評を書く『名馬を読む3』が競馬入門に持ってこいの本だからだ。タイトルの通り歴代の名馬を一頭一頭挙げながら、彼らの活躍と、そこに描かれるドラマ、連綿と続く歴史が熱く語られている。先述したウマ娘にも出てくる名馬も語られているので、より手に取りやすいだろう。もちろん1巻目から読まなければならないわけでは無いし、気になる名馬からつまみ食いすることも出来る。

 と言っても競馬ファンであるほうが刺さる部分が多いのは当然であり、熱烈な競馬ファンである私が最初に触れたいのは、カブラヤオーについて語られる所である。そのページは「カブラヤオーが嫌いだった。」という一文で始まる。私はまだ競馬歴10年そこそこの若輩者なのでカブラヤオーのことは名前しか知らなかった。しかし、この「誰が見ても名馬なんだけど、ちょっと好きになれないんだよな…」という微妙な感情には多くの競馬ファンがうなずいてくれるのではないだろうか。私にとってのそんな馬とはGⅠ5勝の三冠牝馬アパパネである。その理由はシンプルで、私が競馬にハマるきっかけとなった美しい栗毛馬のアニメイトバイオが、常にアパパネに苦汁を飲まされ続けてきたからである。今でも実力では負けていなかったと信じているが、遂にGⅠの舞台で逆転することはなかった。しかし、まだ勝負は終わっていない。なぜなら彼女らの子供が、現役でレースを走っているからである。この世代を超えた熱い勝負も競馬のたまらない魅力である。

 書評なのに思い出話が長くなってしまった。競馬ファンに馬について語らせてしまうと本当に話が終わらない。このシリーズが既に3巻目なのも納得がいくというものである。この3巻は5章立てになっており、それぞれのテーマで名馬が紹介されているが、3章の「この馬、予想不可能につき」はニヤニヤが止まらない。競馬とは意外性のスポーツだと思う。意外性はドラマを生む。そして意外性故に愛されるのである。馬券を買っている身からすると、応援した馬が負けた瞬間は泣きたくなってきたりするのだが、一年も経つと馬券を外したことが武勇伝になっていたりする。この章では多くの人の財布をすっからかんにし、代わりに忘れられない思い出をパンパンにしてくれた馬たちについて語られている。

 冒頭で競馬入門に持ってこいと書いたが、血統や牧場の話など、少し難しいところもある。そんな人は5章の「キタサンブラックをつくった男たち」から読んでもらいたい。この章は三人称で書かれた短編ノンフィクションである。すらすらと読めるし、キタサンブラックのノンフィクションが面白くない訳がない。歌手の北島三郎さんがオーナーであることでも有名になったブラックだが、その活躍の裏には本当に多くの人の夢とドラマが詰まっていたのである。

 競馬は毎週、欠かさずに行われている。そして毎年のように名馬と呼ばれるようになる馬が誕生していく。競馬が続く限り、名馬を読むという本も永遠に続くだろう。次は、あなたが目撃者に、語り部になる番かもしれない。