2016年の週刊文春
著 者:柳澤健
出版社:光文社
ISBN13:978-4-334-95214-3

2016年の週刊文春

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

古川 淳 / 由利本荘市中央図書館
週刊読書人2021年7月16日号(3398号)


 本書は,1世紀にわたる株式会社文藝春秋の歴史に名を残し,日本のジャーナリズムに今なお挑戦し続ける二人の編集長,花田紀凱と新谷学を軸に,読者に「真実」を伝えるべく奮闘した編集者と記者たちの記録である。ここでは,その二人をはじめとする多数の関係者の証言により,『週刊文春』(以下「文春」)がスクープにこだわり続ける理由が明らかにされている。

 花田は,天性の“雑誌づくりの天才”であり,新谷は,人脈を情報に変えて武器にした“努力の人”である。異なる個性を持つ二人の活躍は,当人の力量に加え,社のトップや編集部員との信頼関係によって生み出されたものでもあった。一方で,彼らに対する嫉妬や対立など企業内の人間模様も生々しく綴られており,その意味では,本書は企業論/組織論/リーダー論といった多角的な側面からも読むことができる。

 週刊誌は時代を映すツールと言われる。本書も昭和~平成の重要事件の取材現場を,臨場感と緊迫感に満ちた描写で描いている。前線にいる編集者と記者は,「人間のどうしようもなさ」を愛し,取材対象の人生に寄り添い,真実を明らかにすることにこそ社会的意義があるという強い意志を持ち続けた。だからこそ「文春」は絶対的な信頼を獲得することができたのである。情報の価値と重みは,紙/デジタルを問わず,雑誌を編む人間の信念と覚悟,情熱と息遣いによって生み出されるものだと,改めて知らされた。

 タイトルの「2016年」は,“文春砲”の言葉が生まれた年であり,雑誌の未来を拓くために新谷が仕掛けた「文春」挑戦の年である。日本の雑誌とジャーナリズムは,変化しながら,これからも我々をドキドキさせるだろう。翻って,自分は図書館員としてどれほどの熱量をもって情報と人に向き合っているのか。重い一撃である。