カラフル
著 者:森絵都
出版社:文藝春秋
ISBN13:978-4-16-774101-3

カラフル

書評キャンパス―大学生がススメる本―

伊藤有輝 / 名古屋学院大学経済学部経済学科1年
週刊読書人2021年8月6日号


 この物語は、生前の罪により輪廻のサイクルから外された〝ぼく〟が、天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得たところから始まる。大きなあやまちを犯した罪な魂は輪廻のサイクルに戻ることができないという決まりがあるが、その魂に復帰のチャンスが与えられたのだ。再挑戦の具体的な内容は、魂である〝ぼく〟が、ある一定期間、下界のだれかの体を借りてすごし(ホームステイと呼ぶ)、前世で犯したあやまちの大きさを自覚することである。修業がうまくいけば前世の記憶を取り戻せるが、失敗すれば二度と輪廻のサイクルには戻れない。

〝ぼく〟が、ホームステイしたのは、自殺を図った少年小林真で、真は父、母、兄との4人家族である。〝ぼく〟が、病院のベッドで目覚めたときの家族の第一印象は、真のことを心から思っているというものだった。しかし、家族の正体を知ったことにより印象が一変する。父は自分さえよければという利己的な人間、母はつい最近まで不倫しており、兄は無神経で意地悪な男であると、天使ガイドのプラプラから知らされるのだ。そのあと〝ぼく〟は、部屋に籠ったり、母を責めたりもするが、真としてそれなりに仮の世を過ごしていく。が、ある「最悪の一日」に、援助交際をしている、真の初恋のひろかの本当の姿を知る。その後、唯一真の変化をかぎつけたチビの唱子に本音をぶつけ、ホームステイしてはじめてできた友人、早乙女くんの存在には喜びを感じる。そして次第に父や母、兄へもこころを開いていく。そうした人々とのやりとりの中で、人の美点や欠点、あるいは真という人物についても見えてくる。さまざまな経験を積んだ〝ぼく〟は、生前に犯した罪を思い出すことができるのか?という内容になっている。

 本書は、題名にもなっているように、どんな人間も一面的にとらえることはできず、多面的で様々な〝色〟を持っていることを伝えようとしている。人間は欠点だけではなく美点も持っている。逆に美点だけではなく欠点も持っている。たとえば、ある人の目には、何にでも挑戦する前向きな人が、別の角度から見れば、飽きっぽい人だったり、いつも意地悪な人が、大事な時に自分を助けてくれたりする。視点を変えれば、見え方が変わる。自分が作った型に押し込めて人を判断するのではなく、その人と関わろうとすることにより、人間関係を築くことができる。

 この本で筆者の心に響いた一文は、〈せいぜい数十年の人生です。少し長めのホームステイがまたはじまるのだと気楽に考えればいい〉だ。これは、〝ぼく〟とプラプラとの別れの場面で交わされた言葉である。難しいことに挑戦しようか迷っている時、つらいことがあった時に思い出すと気持ちが楽になり、また頑張ろうと思え、気持ちよく明日を迎えることができる。また、人生悩むばかりでなく、大胆に行動することもありだと、考えさせてくれる。

 この本も、見方を変えれば青春小説とも、〝ぼく〟の犯した罪を当てる推理小説とも、現実には起こりえない事柄を扱う幻想文学とも読むことができる。なにごとも、1つの面だけですべてを判断するのではなく、いろいろな角度から判断する必要があるのではないか、という示唆をあたえてくれる本だった。

★いとう・ゆうき=名古屋学院大学経済学部経済学科1年。趣味は映画鑑賞と読書。