グリーンスローモビリティ
著 者:三重野真代/交通エコロジー・モビリティ財団(編著)
出版社:学芸出版社
ISBN13:978-4-7615-2771-6

ゆっくりをたのしむ

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

中村由美 / TRCデータ部
週刊読書人2021年8月20日号


 グリーンでスローなモビリティってなんだろう?私がタイトルから浮かべたのは人や馬=生き物が動かす乗り物だ。しかし表紙にあるのは自動車。それも遊園地やショッピングモール、動物園などで見かける、自動車というか遊具によく似たものだ。副題には「小さな低速電動車が公共交通と地域を変える」とある。

 巻頭からカラーで続く「写真でわかる!グリーンスローモビリティ」を捲ると、10人は乗れそうなバス然としたもの、4人乗りのコンパクトなもの等、多様な外観の車両が、海や山といった観光地、都会のビルの間、坂道や細い路地を走っている。乗る人も見ている人も皆楽しそうだ。

 グリーンスローモビリティは「時速20㎞未満で、公道を走ることができる4人乗り以上の電動パブリックモビリティ」という定義で2018年にはじまった。2021年春に少し定義に変更があったと注釈があることからも進化途中の乗り物だとわかる。略称は「グリスロ」。低速で、公道走行ができて、乗合交通として、また有償事業としての活用もできる。

 グリスロが担うのはバス停やスーパー、かかりつけの病院から家まで、観光地の駐車場から入口までといったラスト/ファーストワンマイル。国道4号線を端から端まで行ってみようという長距離移動や高速移動ではない。

 地域の足として毛細血管のように走ったり、予約制のドアtoドアで暮らしをサポートしたり。或いはまちの顔として、見所を周遊しながらまち全体の空気感を味わう観光モビリティにもなる。使い方は地域の数だけある。

 沼津では、海の幸を味わえる魚市場や深海水族館等、主要な観光スポットのある港と駅前市街地の間、2キロ余りをグリスロが走る。歩くには遠い距離。観光の賑わいを駅までつなぎ、住人の生活利便性を高める手段として、ゆっくり楽しむまちづくりの一翼を担う。

 瀬戸内海に浮かぶ姫島では、地域の暮らしや自然と触れ合うエコツーリズムの推進にグリスロが活躍中。車体の充電には、降り注ぐ太陽光でエネルギーを自給するガレージ型の太陽光発電・蓄電システム「青空コンセント」を用いており、島の自給自足の文化とも調和している。

 導入途上の事例が多く、無償あるいは心置きなく利用するため気持ち程度の価格設定が多いが、継続した事業運営のための提案もある。「貸切」「レンタカー」といった運用による収益の確保、何より地域活性化や福祉、観光、環境など、まちづくり全体に波及し、金銭に留まらない利益をもたらすものとして効果を共有することが大切だ。

 自由な往来がしにくいこの数年の間に続々導入されるグリスロ。しばらく行っていない観光地をグリスロで巡ったらどんなだろうか。駅や商業施設から遠い実家辺りなら、親戚の暮らすニュータウンなら、坂の多い会社周辺ではどうグリスロ活用できるだろうか。本書の事例から想像を広げ楽しみたい。