行った気になる世界遺産
著 者:鈴木亮平
出版社:ワニブックス
ISBN13:978-4-8470-8312-9

想像するって自由なんだ

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

二瓶恵 / 文京区立小石川図書館(指定管理者)
週刊読書人2021年9月10日号


 この本との出会いは、勘違いからでした。「行った気になる世界遺産」を「行った、気になる世界遺産」と読んだのです。著者は鈴木亮平さん、2018年にNHK大河ドラマ「西郷どん」で大河初出演初主演をはたし、今年の秋公開の映画「燃えよ剣」では近藤勇を演じる俳優さんです。忙しいなかでどうやって世界遺産を巡っているのかに興味を持ち手に取りました。しかし読み始めると、徐々に違和感を感じました。読んでいる途中についあとがきを先に読んでしまうと、所々にでてくるのが「行ったことないですけど」の一文。それもそのはず、この本は行った気になった、つまり行ったつもりになった世界遺産の本、だったからです。

 紹介されている30の世界遺産は実際に存在します。しかし著者は実際に行ったことがありません。想像力を使って行ったことのないメキシコのチチェン・イッツァ(マヤ文明の遺跡)やアルゼンチンのイグアスの滝を、まるで実際に訪問したかのように旅行記として書いたのがこの本です。目次の次ページにはちゃんと「この旅行記はフィクションです」と明記されていますし、あとがきや奥付で補足の説明もされています。自分の勘違いだとわかっていながらも、それ以上に最初に手にとったときと読み終わったときでは、この本に対する印象ががらりと変わっていました。

 この本が発行されたのは2020年9月、新型コロナウイルス感染拡大防止のため世の中の仕組みが変化し新しい社会の在り様を模索している最中でした。海外はおろか日本国内でも気軽に行き来ができない、会いに行きたいけど行けない。様々な縛りがでてきましたが、そんななかでも変わらず「想像すること」は自由のままです。

 コロナ渦のなかでどうしても不安や心配に押しつぶされそうなことはあります。それもある意味想像の力によるものです。それならば未来を明るいほうへ、楽しいほうへ想像してみようじゃないか。この本からはそんな想いを感じ取りました。

 鈴木亮平さんは世界遺産検定1級を取得していて、行ったことがなくとも世界遺産に関する膨大な知識を持っています。正しい知識で肉付けされていることで、より一層これが想像から成る旅行記であることを忘れさせてくれます。

 自分だったら想像でどこへ旅行に行こうか。知らない場所へも想像だったらどこへでもいけるから、まずは写真集の書架から旅をしたい場所を探そうかと思います。