朝が来る
著 者:辻村深月
出版社:文藝春秋
ISBN13:978-4-16-799133-3

朝が来る

書評キャンパス―大学生がススメる本―

長谷川今日子 / 神戸女子大学文学部3年
週刊読書人2021年9月24日号


 近年ニュースで取り上げられている不妊治療、あるいは望まない妊娠について、私にも起こりうることだという意識から、目を留めることが多くなった。

 本書の主人公は、長く辛い不妊治療の末、特別養子縁組で息子の朝斗を授かった栗原清和・佐都子夫妻。そして朝斗の生みの親で、中学生という若さで出産した、片倉ひかりである。

 全四章からなる本書は、前半は夫妻に、後半はひかりに焦点を当て描かれている。

 第一章の始まりは、「電話が鳴った」――最近、栗原夫妻のもとにかかってくる無言電話。佐都子は、夫と息子との満ち足りた生活を送っているが、その中に一つ、怪しい雨雲のようなものを感じている。ある日、電話の相手は「カタクラ」と名乗った。そして子供を返してほしい、そうでなければお金を用意してほしい、と脅迫する。

 朝斗の通う幼稚園から、朝斗がジャングルジムで一緒に遊んでいた友達を落とした、と連絡が入ったとき、慌てて幼稚園へと駆けつけた佐都子。朝斗と向かい合うと、彼は引き絞るような声で、押していないと訴える。その言葉を聞いた佐都子は、息子の手を取って言う、「信じるよ」と。

「信じる」と言うのはとても簡単だが、心の底にある不安や疑念を拭い去るのは難しい。それは、言われた方も同様だ。

 第三章では、ひかりが母から「信じているからね」と言われるのだが、ひかりは、自分のためではなく、親の利己心からの言葉だと跳ね返す。このとき、ひかりは出産を終え、高校生となっていた。新たな彼氏の存在がばれたのだ。高校二年となったひかりは、家を出る。そしてバイト仲間に裏切られ、職場を変えるなどするうちに、頼れる人がいなくなり、底へ底へと墜ちていく。

 佐都子とひかりの母の発した二つの「信じる」は、言葉の重みが全く異なる。そして、その背景には、佐都子とひかりの母が、どのように目盛りを刻み、物差しを作り上げてきたかが大きく関わっていると思う。

 栗原夫妻が行ってきた不妊治療は、心身ともに辛いものだった。それでも、次こそはと期待して、簡単に諦めることができなかった。しかし、現実を受け入れて治療を止め、養子という形で我が子を得た。

 ひかりの母は教師であり、娘にも堅実でまじめな人生を歩んでほしいと心から願っていた。しかし、中学生の娘が妊娠・出産をし、理想とはかけ離れていく。何とか立て直そうと必死に自分の価値観をひかりに押し付ける。ひかり自身は、親から失敗の印を押されたと自覚して、認められないことに苦しみ続けた。

 辛い現実から逃げずに、受け入れた経験を持つ佐都子。彼女の言葉には重みがあって、朝斗の強い味方となり、励ましてくれる。六年という月日を経て、佐都子と再会したひかりも、その言葉に救われるのだった。

 ひかりの将来がこれからよくなりますように、と願う。そして、私のような若い世代に本書を読んでほしい。家族とは何か、子供を授かるとはどういうことか、様々に考えるきっかけになればいいと思う。

★はせがわ・きょうこ=神戸女子大学文学部3年。最近は、双子のパンダの動画を見ることが好きです。愛らしい姿に癒されます。成長が楽しみです。