精神科医が教える聴く技術
著 者:高橋和巳
出版社:筑摩書房(ちくま新書)
ISBN13:978-4-480-07275-7

精神科医が教える聴く技術

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

熊木寛子 / 新潟県立長岡高等学校
週刊読書人2021年8月13日号(3402号)


 カウンセラーを指導する立場の精神科医である著者が,一対一でクライアントの話を「聴く技術」を,<黙って聴く><賛成して聴く>など四つのステップに分類し,具体的な会話例とともに解説する一冊である。この本で特に印象に残ったのは,<黙って聴く>ことの難しさだ。

 クライアントが話し始めたら,カウンセラーは「絶対に,口を挟まないで」「絶対に,質問しないで」「絶対に,助言をしないで」話し終わるまで,ただ静かに聴く(p.33)。ところが,実際にカウンセラーの会話記録を見ると,クライアントの発話と同じ回数だけ口を差し挟んでいることが明白となる。口を差し挟むのが相づちのつもりであっても,差し挟んだ一言がクライアントの話の方向性をも変えてしまう,と著者は言う。

 このことを意識して,<黙って>クライアントの話に耳を傾けると,クライアントの話し尽くしたという満足感がはっきりと見えてくる。

 <黙って聴く>ことを身につけるのは難しい。時間もかかる。その中で,時として相手を理解することができない,話に賛成できない,耐えられないと聴き手があきらめて落ち込むのは,聴く技量が伸びるチャンスであるという。ここで,感情に左右されずに,話の内容を分析しながら「聴く技術」の実例が提示される。「聴く技術」を深めることで,深層で論理的に動く「人の心」が理解できるようになると,著者は結ぶ。

 実際に<黙って聴く>ことを意識して同僚の話を聴く。自分が口を差し挟もうとした一瞬,相手がその空気に敏感に反応して口をつぐむ姿にハッとする。<黙って聴く>難しさと同時に,聴くことで新しい視点が見えてきた。

 図書館の現場で,利用者の声をきちんと聴くことができているだろうか? 「聴く技術」は司書にとっても必須と痛感した次第である。