モニカと、ポーランド語の小さな辞書
著 者:足達和子 著
出版社:書肆アルス
ISBN13:

モニカと、ポーランド語の小さな辞書

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

田中貴美子 / 札幌市厚別図書館, 日本図書館協会認定司書第 1062 号
週刊読書人2021年8月27日号(3404号)


 『ポーランドの民族衣裳』(源流社 1999)は同国の文化を服飾の歴史を通じて紹介した好著だった。今回は同書の著者が20年を経て出版した新刊を紹介したい。

 ある日,ワルシャワ大学に留学中の著者の下宿先に大家の遠縁にあたる小さな女の子が連れてこられた。着替えの1枚も持たないモニカであった。本書は1976年に1歳9か月のモニカと出会ってからの42年間の記録である。

 著者は幼い頃に両親が離婚し母親に育てられ,周囲からの偏見や差別に傷ついた背景があったため,自身と同様の不幸がモニカに降りかかるのではないかと常に憂慮していた。留学を終え帰国する際に著者はモニカに日本の昔話をポーランド語に訳して書き残してきた。「まだ,六,七年たたないと読めないけれど,これは,モニカが,いつか自分の生い立ちに不安を感じるときがきたら,『けれど,小さいころ,わたしはみんなにかわいがられた』と思えるようにその証拠品としてでした。」(p.33)後に著者は多くの日本の民話を翻訳し出版したが,その発端がモニカへの愛情であったと受け取れる。そして,2人の交流こそが,柔和な懐かしい民話のように感じられる。

 40年を越える年月,著者はモニカの心の支えとなるように手紙を通して慈愛を注ぐ。モニカにとっても「チョーチャ(おばさん)・カズコ」がかけがえのない尊い存在になってゆく様子が,お互いの手紙のやり取りから見て取れる。

 モニカの成長と重なるように,日本からは想像できないポーランドの社会主義の崩壊していく様子が描かれている。世界中から愛される美しい音楽を持つ国ポーランドを著者はこれまでも読者に紹介し続けたが,本書でさらに強く深くポーランドの文化を引き寄せてくれた。