名古屋の富士山すべり台
著 者:牛田吉幸 著 大竹敏之 編集
出版社:風媒社
ISBN13:978-4-8331-1562-9

名古屋の富士山すべり台

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

齋藤森都 / 名古屋市鶴舞中央図書館
週刊読書人2021年9月17日号(3407号)


 私は,「調べる」ということが好きである。しかし,調べたことをまとめ,後に残す「調査研究」とするのには力が要る。そのため,「調べた」だけの不完全な調査が積まれていく。この本は「調べる」に留まらず,完全に「調査研究」とすることの大切さを気づかせてくれる。

 名古屋市の公園を中心に富士山型のすべり台(富士山すべり台)が多くある。地元で生まれ育った人でなければ富士山すべり台を知らないのはもちろん,地元の人であり,このすべり台を知っていてもこれが特別なことであると感じる人はほとんどいないであろう。この富士山すべり台に注目して調査を始めたのが著者である。

 著者はこの調査で図書ではまとまったものがないため,建設に携わった当事者からの聞き取りやインターネットでの地道な調査を行ったとしている。ある種の調査において図書は万能ではないということだ。図書館で働いている身としては図書は万能だと考えたいが,調査によっては他の方法のほうが必要な情報に結びつきやすいこともある。しかし,図書館は図書を中心とした情報を保存して後に残すという役割を忘れてはならない。それが,あとがきで述べられている著者の言葉だ。

 著者は図書館で古い航空写真や新聞記事を見ることで,富士山すべり台の建設に関わった人々の情熱に感化され,著書がずっと先の人々に参考資料として使われることを願っているとしている。ある人が書いた著作物が後の人によって使われ,また新たな著作物を生み出す。このサイクルは連鎖する。今後,紙の本の比重が変わったとしても,このサイクルを回す仕組みづくりが図書館の重要な役割であろう。